偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

シソンヌライブ[neuf]雑感

いよいよ最後になりました。昨年公演の9本目です。



《収録作品》
不安/隣人/恋人/お店/老後


さて、今作はコロナ禍の真っ只中での公演を収めたもの。ジャケ写もこれまで隣り合っていた2人が距離を置いてマスクしてたりと芸が細かくて素敵です。
全体にネタの本数を減っていて、その分一本ずつをじっくりドラマとして練り上げられています。タイトルも2文字に統一され、演劇や短編映画のような味わいすらある一本に仕上がっています。
内容としては「不安」というものをゆるく全体のテーマに据えて、直接的にコロナの話題は出ないものの世相を反映した内容になっています。

特に冒頭の「不安」はそれが色濃く出ています。疫病そのものへの不安ではなく、そこから露わになりつつある生活や人間関係への不安が吐露され、それを笑いの形で少しでも癒そうとするという内容。
これまでもシソンヌのコントに通底していた優しい視点が、今ついに直球で目の前(画面の前)の観客に向けられるわけです。
本人たちはテレビなんかにもちょいちょい出たりはしているものの、ライブスタッフさんとかは大変だろうし、そういうのを見ているだろうからこそのこのネタには胸が熱くなりますね。まぁ言ってることはけっこうバカバカしいんだけど、それも含めてね。

続く真ん中の3話はいつものシソンヌなんだけど、それぞれ時間が長くなり世界観の作り込みに気合が入って重厚さすら感じさせます。

「隣人」は、最初からそうじゃないかと思ってたらやっぱりそうだったっていう笑いと、ゆってもたったそんだけの題材をよくもまぁここまで広げるなぁと感心させられる展開の数々が面白いです。こんだけの話なのにどこか壮大ささえ感じてしまうのが悔しい。

「恋人」は地上波で吹き替えで放送されてるアクション系の洋画みたいな話で、台詞回しの微妙に大仰な感じが翻訳感あって良いっすね。シリアスな空気感の中でのアホみたいな繰り返しギャグに分かっていつつも毎度笑ってしまいます。その中でも恋人たちの愛情をドラマチックに描いてもいて、切なくなりかけたところでまた笑わされるというメリハリが楽しいっすね。

「お店」は、ようこさん再登場。以前テレビでもなぜか漫才の形式でようこさんをやってたので、相当お気に入りなんでしょう。今回レギュラーの野村くんが初めて出てこなかったので、その分見知ったキャラが出てくると嬉しいですね。というか野村くんの立場がようこさんに乗っ取られたのかも......?
内容も深いような浅いような何とも言い難い感じが面白いです。

そして、ラストの「老後」は、コロナ禍において不安や孤独感蔓延る世界の空気感を、老後の人生に仮託したような内容。
2人のふざけたやり取りも、このお話では切なさを纏ってしまい、笑いながらも常に涙腺がふるふる状態。これまでのライブでも最後はちょっと泣ける話が多かったことは確かですが、ここまでがっつり泣かせにきてるのは初めてだし、それでしっかり泣けるから凄い。
それでも終わり方にはどこか晴れがましさもあり、ライブ全体を通して不安な現実を受け入れつつも少し気持ちを軽くして帰れるような優しさがありました。

そんな感じで、世相のせいもありますが一本ずつが長くてその分作り込むという攻めた内容にもなっているので、DVD全部観てきたファンにとっても新鮮な気持ちで見れる傑作でした。次回(今年?)以降どうなっていくのかにも期待!