偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

施川ユウキ『ヨルとネル』感想

『バーナード嬢』『鬱ごはん』など気になるけど単巻じゃないから手を出せずにいる漫画の著者による単巻の続きもの4コマ。


元は普通の人間だったが小人になってしまったヨルとネルの2人は、研究所を脱走して南の海を目指して旅をする......。


いや〜めちゃくちゃ良かった......。

以前観た『ノッキンオンヘブンズドア』という、死病に冒された2人の男が海を目指す映画がなんかあらすじめちゃくちゃ好きそうな割にハマらなかったんだけど、本書を読んで私はこういうのを『ノキドア』に求めていたんだと分かった。

まぁ本作は死に場所を求めてではなくて生き延びるためにではあるんだけど、それでも男2人で、小人だから逃げるのも難しく捕まったら即オシマイという絶望的な状況の中で、ゆる〜い日常コメディ(ほんのりBL風味)が繰り広げられるのがエモくないわけがない、そうだろ?

本書のベースはゆるい日常コメディ、それも小人あるあるネタを交えたゆるくてかわいいギャグが満載。
「小人あるある」は当然小人でない私たちからすると意想外で新鮮味に満ちていて笑ってしまいつつ、「小人になってしまった」という絶望的な状況を笑いに変えて歩いていく彼らの健気さに常にちょっと泣きそうな気持ちで読みました。
少しずつ重要な情報が小出しにされたり人に見つかりそうになったりするシリアスな場面もあることで、笑いながらもあまりにも困難な彼らの旅の前途を思って絶望的な気持ちにもさせられるあたりのコメとトラのバランスも素晴らしい。

あと、小さくなることで道に落ちてる靴だとか、虫とか動物とかが「大事件」になっているのが、自然とか道端とかとの距離が近かった子供の頃を思い出してノスタルジってしまった。
カブトムシのくだりが私は1番好きです。洗面台のくだりが2番目に好きかな。しかしどのエピソードもほんとに愛おしい。

ヨルとネルの2人の友情がややBLっぽいくらいに描かれているのも良かったなぁ。淡々と冗談を飛ばし合いながらも時々見せる世界に2人だけになってしまった感覚がもう堪らん。きゅんきゅんせざるを得ねえ。

そんな感じでストーリーもの4コマらしいゆるさとエモさの両立を楽しみながら読みましたが、終盤はもう一気にエモさに舵を切ってきやがるので、どうなるかは言えないけどまぁ涙なしには読めなかったし、鳥肌立ちすぎて怪奇!全身鳥肌男!になってしまった。
なんせ「誰も触れない二人だけの国」症候群なので、めちゃ好きでした......。みんな読めよ!