偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

パリ、テキサス(1984)


テキサスの荒野を彷徨う男トラヴィス。4年間失踪していた彼を、弟のウォルトが見つけ出し連れ帰る。
妻が姿を消し、息子のハンターをウォルトとその妻アンに預けて失踪していたトラヴィスだったが、ハンターと共に妻のジェーンを探しにいくことを決め......。



前から気になってたんですが、ようやく。

冒頭、テキサスの荒野の砂色と空の青の中を真っ赤な帽子で歩くトラヴィスの姿とスライドギターが印象的な劇伴だけでもう名作の予感がしてしまいます。
荒野も街も何もかもとにかく映像が美しくて、ほとんどのシーンで赤という色が印象的に使われているのもカッコよい!赤は愛の色?それとも血の色でしょうか?詳しくは書けないけど、この赤がラストシーンに至って効いてくるあたりがとてもよかったっすね。

ストーリーは、トラヴィスが弟に保護(?)されて、幼い頃に別れて以来会っていない息子のハンターと再会し、徐々に父親になろうとしていく再生を描いた前半と、ハンターと共に妻のジェーンを探しにいく後半の2部構成のような形になっています。
前半では父親になろうとするトラヴィスの不器用さと8歳の息子ハンターの大人びたところとのギャップが微笑ましくちょびっとコミカルなタッチで描かれています。ハンターの学校からの帰りのシーンが好きすぎるんだよなぁ......。ハンターがあんだけ大人びているけど普通におもちゃで戦いごっこしてるシーンも可愛く微笑ましくもこの歳の子供がこんだけ老成した感じになった背景を考えるとちょっとつらさもあって印象的な名シーン。というかもうほとんどの場面がすげえ良いんすよね。

後半の始まりを告げる、高架下でハンターにママを探しに行かないか?と言う場面も良いし、妻を探して張り込みするところも最高......。
その辺までは、息子と再会して父親として目覚める主人公の姿にちょっとほっこりするような感覚が強いですが、終盤の妻を見つけてからは一気に胸を締め付けられるような展開に。
若気の至り的な愚かさから家族を壊してしまった彼らが話すシーンはジャケ写にもなっているナスターシャ・キンスキーの美しさも相俟って圧巻......。ここにきて前半に出てきた「映画」が効いてくるのも上手いっすよね。
結末には「え、え〜......」とちょっとボーゼンとしてしまったんですが、若い頃ならたぶん怒ってたけど今ならなんとなく分かる気もしてしまう、でもそれってさぁ......とやっぱりちょっと怒っちゃったりもする、そんなモヤモヤが残る結末ですが、愛というもののメンドくささと美しさを共に描き切った名作だと思います。

観る前はタイトルと「ロードムービーであるらしい」というだけの前情報からてっきりパリからテキサスまで車でぶーんって走ってくお話かと思ってたら、『パリ、テキサス』というのはテキサスの中にあるパリという名の土地のことでした。
作中で一度も映されることのない幻のようなその土地が、家族の幸せという幻を象徴するようで、見終わってからタイトルを思い出してまた切ない余韻に浸りました......。

以下少しだけネタバレ。








































































ホームビデオという画面の中の幸せだった一瞬の時期の光景と、マジックミラー越しに対面する場面との対比が切なすぎるよ......。作中ではビデオの中を覗いてこのガラス越しの再会だけが2人の交わりで、直接触れたりすることもなくまた離れ離れになっていく様が苦しい......。
「ある男と女が」みたいな体で自分のことを語るのベタだけど好きだし、あんだけ黙りん坊だったトラさんがこんだけ喋るだけで緊張感溢れててよかった。

しかし、妻と息子を再開させて自分は去る、というのは男の自己満足的ナルシシズムのようにも思ってしまうけどなぁ......。そりゃ、こっから3人で何もなかったように幸せに暮らすなんてのは難しいだろうけど、そんでもそこを目指すべきなんじゃないのか!?とも思ってしまう。
それは『PERFECT DAYS』の役所広司の生き方に強烈に憧れつつも同時に「それでいいのか!?」とも思ったのと似ていました。
そんでも、ラストシーンで夜明けのインディゴブルーの空と青い街灯の中を仄かな赤いヘッドライトを灯して走っていくシーンは印象的。ここまで「赤」がおそらく家族の愛とか絆とか情熱みたいなもののメタファーとして使われていたのが、最後青に消されそうになってもまだ灯っているのが泣けるわい......。