偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ヤマシタトモコ『ミラーボール・フラッシング・マジック』感想

オンナとオトコの恋とか愛とかセックスとかにまつわる7編を収録した短編集。

名前は見たことあるけど読むのは初の作家さんでしたが、かなり好きかも。
とりあえず絵が好き。シュッとしててイヤらしいエロさはないんだけど抑えた色気があって素敵。
お話も帯に「男が読むべき」とか書いてあったけどまさにそんな感じで、男には分からない女という生き物の不思議な部分もくだらない部分も生々しく描かれていて、うん、お勉強になりまちた......。セリフとかもいちいち印象的で、恋愛名言集みたいな趣さえある。
あと漫画初心者なので難しいことはわからんのですが、セリフそのものが印象的なのはもちろん、それを最大限印象付けるコマ割りとかの演出もエグかった。
他にも短編集いっぱい出してるみたいなので他のも読んでみたいし、「さんかく窓の外側は夜」とかもタイトル聞いたことあるから読んでみたいっす。
以下各話ちょろっと感想。



「うつくしい森」
男子校に若い女の美術の先生が転任してくるというシチュエーションからして最高。その先生のことが気になって仕方ない美大志望の主人公が、美大志望だけに(?)アートな妄想を繰り広げていくのにもうドキドキしっぱなしでなんか変なフェチの扉が開きそうになってしまった。特に最後の方の妄想のシーンのインパクトやべえし、そっからの現実はものっすごいピュアなのも可愛くて好き......。



「ミラーボールフラッシングマジック」
ミラーボールがフラッシングした瞬間を4つの視点から描くオムニバス的な短編。
その「瞬間」を切り取った作品だけに、どのエピソードも時間が静止するような一コマが焼き付くし、それを「ポーズ」「スロー」といったビデオリモコン演出でやるのがめちゃオシャレ。夜の話で全編月明かりくらいの暗さなのが月とミラーボールの眩さを際立たせてるのもオシャレ。とにかくオシャレな作品なのよさ!
特に好きなのはやっぱ最初のビッチの話で、主人公のモノローグがミラーボールに侵されていくところにめちゃ笑ったしそんでエモいからズルい。
あと3話目のチンポが最高で何度読んでも笑っちゃう。


「don't TRUST over TEEN」
女子高生3人組のこの感じがめちゃ良い私も女子に生まれてこういう感じで学生生活したかったわ〜て感じ。少女っつーのは、みたいなとこからのおっさんだって、みたいなのにキュンとしそうになるがしかしそんでも20も年下の未成年と付き合うおっさんはあかんやろという倫理観が勝ってちょっとキモく感じてしまった。


「blue」
若くて美しい青年とえっちなお姉さんの傲慢な2人の交流にヒリヒリしっぱなし。吹き出しが黒いとこが全部グサグサ刺さるわ。人間関係における普遍的な気付きを得てからのちょっと心が軽くなるようなラストが素敵。


「いつかあなたの不思議のおっぱい」
ビッチのくせに僕にだけおっぱい触らせてくれないあの女!というシチュエーションが最高すぎてつらい。どうやったら女性作家がこれを思い付くのか?それとも女性作家だからこそなのか?モテなくて不器用な男の魂を描き切った傑作である。
それにしてもなぜおっぱいというものはただの脂肪の塊なのにこんなにも飽きずに私たちの心を惑わすのか......。
主人公が誰にも心開かない悪人なのが自分を見ているようでつらかった。


「カレン」
10年来の片想いの相手の結婚式に呼ばれる話(つらい)。
「可憐」という届かない憧れを名前にされて、最後に一度だけそれに届くけど本当に呼ばれたいのは......というのがなんかこう吐きそうになるくらい切ねえ。カレンちゃん視点で描かれてるけど男の方の気持ちもなんとなく想像出来る気がするから嫌ですわ。


「エボニー・オリーブ」
女3人仕事終わりにちょっと洒落たお店で集まって喋るだけの話なんですけど、その喋るだけがめちゃくちゃ面白い。
女たちは男の話しかしてないんだけどそれがなんともリアルで男の私からすると雲の上の出来事のように見えてしまう。男が集まっても女の話しかしないけどそれは中学生の猥談レベルでしかないからな、、、。
3人ともそれぞれ自分の生活があってそれぞれ確立した人生観があった上で集まれば話題の尽きない感じが羨ましいわ。俺友達いねえから。
「値踏みされた」「いねーよ」など印象的すぎる言葉も多かったです。