偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

キアロスタミの『ジグザグ道3部作』を観ました。

はい、というわけで3月のふぇいばりっとの番外編として、キアロスタミ監督による『ジグザグ道3部作』の軽い感想をまとめときます。


TUTAYAの発掘良品やシネフィルWOWOWの「今月の巨匠」のコーナーで取り上げられたりと、今、映画ファンの間でプチブームのキアロスタミ
私はシネフィルWOWOWの方でこの3部作をまとめて見たのですが、凄かったです。

全体に、なんともシリアス調な、それでいてどこかとぼけたユーモアも垣間見られる、出てくる人はみんな感じ悪いけどそんな中に人生への真摯さも垣間見られる、今まで味わったことのない不思議な映画体験でした。
以下では3部作各作品についての某所に載せた感想をまとめて置いときます。




友達のうちはどこ?

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内容はタイトルの通り友達の家を探すというシンプルすぎるもの。
小学生の少年が主人公。冒頭、教室で隣の席の友達が宿題をノートに書いてこなかったことで先生にど叱られる。「次ノートに書いてこなかったら退学にしてやる!」と。今の日本だったらこんなん言われても先生の冗談というかただの脅し文句だと思いますが、この規則に厳しい国ではガチにしか聞こえなくて嫌な感じがします。
さて、主人公が家に帰ると、なんと自分のカバンにさっき叱られてた友達のノートが。「返さなきゃ明日友達が退学になっちゃう!」と大慌て。
この題材選びがめちゃくちゃ上手いですよね。小学生の頃って我々ですら宿題忘れたりしたら顔面蒼白もんですからその緊迫感はわかるし、ましてやこんな厳しい国ですからね......。
さて、慌てた主人公はママに「友達にノートを返さなきゃ」と言いますが、ママはまるっきり聞く耳を持たず「宿題しなさい」。「でも退学に......」「宿題しないさい」「遊びにいきたいわけじゃないんだよ」「宿題しないさい」......なんて、宿題しないさい攻撃が誇張ではなく十数回続くんですね。ここの嫌〜な空気感もすごい。

で、そのあとはなんやかんや友達の家までノートを返しにいく、という流れになるのですが、友達の家がどこか分からない。しかも、とりあえず分かっている範囲では自分の家からめっちゃ遠い地区らしい、と......。
そのことに、ここまでの大人たちの嫌な感じも相俟って、この単純すぎる冒険に異様な緊迫感が出てきてまるでサスペンスみたいにハラハラしながら見れるんですね。
しかも、この道中で出会う大人たちもみな一様に嫌な感じ(特に主人公の祖父)。文化の違いなのでとやかく言う筋合いもないですが、大人が純粋に理不尽なので日本に生まれて良かったという気分になります。「子供は毎日殴れば礼儀正しくなる。たとえ元から礼儀正しい子でも毎日殴るのがポイントだぞい!」とか普通に言いますからね。なんてこったい!
ただ、人は嫌な感じでも映像は綺麗。石と木で作られた町並みは、なんせイランですから普段は映画ですらなかなかお目にかかれない風景。町外れは草と林ののどかな景色と、本作を含む3部作の呼称となっている""ジグザグ道""が印象的。

そして、そうこうするうちに日も暮れていき、夜の場面はもう「今から帰ったら家でめっちゃ怒られるだろうな」というぞわぞわ感が終始漂っていて気が気じゃありません。しかし、意外にも夜の場面以降はむしろ人の暖かさに触れる機会もあり、この小さな大冒険の結末にはじわっと感動しちゃいました。そして、あっさりしていながらこれ以外にありえないラストシーンが秀逸。

あまりにシンプルでありながら、それゆえに色々素材の味が楽しめる感じのいい映画でした。




そして人生はつづく

そして人生はつづく [DVD]

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1990年に起きたイラン地震の際、キアロスタミ監督は息子とともに『友達のうちはどこ?』の出演者の少年の安否を訪ねて被災地へ向かいます。
本作は、その体験をドキュメンタリータッチで描いた映画で、偶発的に生まれた"ジグザグ道3部作"の2作目に当たります。

前作を作中作として取り込みつつ、本作自体もまた映画であることを明かした実験的な作品でした。
話の流れとしては、前作の主演の子供を探しながら被災地の人たちにインタビューしていくというものですが、会いたい人になかなか会えずに人に道を聴きながら彷徨するところ、それに宿る一種のサスペンス性なんかは前作の再演の感もあって面白いです。
インタビューに答える村人たちの話は悲嘆ばかりでもなく、それでも人生が続いていくという淡々とした前向きさもあってリアルに感じました。でもこういう話も全部脚本なのではという引っかかりもあってなんとも掴み所がない映画でしたね......。

しかし、ドキュメンタリーという形式をとったにせよ、映画として写すものと写さないものを取捨選択して編集していけばどこかしらで必ず恣意的な部分は出てくるはずで、それならば予め虚構宣言をしたことが震災というテーマを語る上でのひとつの誠実さにはなるのではないかと思います。

あまりにも美しいラストシーンがその作り物としての誠実さを体現しているようで印象的でした。そして、人生は続くのですね......。




オリーブの林をぬけて

オリーブの林をぬけて  ニューマスター版 [DVD]

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友達の家へノートを返しに行く少年を描いた純然たるフィクションの1作目『友達の家はどこ?』
その舞台の村が大地震に見舞われ、キアロスタミ監督(役の俳優)が主人公の少年の安否を訪ねるフェイクドキュメンタリー的な何かである2作目『そして人生は続く』

で、そのジグザグ道3部作の第3作が本作。
前作で印象的だった地震の翌日に結婚したカップルの挿話。そのシーンを演じた男女には、役の外側でとある因縁があり......という、前作よりもう一段上の階層に上がったメタフィクショナル・ラブストーリーです。

前作のキアロスタミ監督役とは異なりながらキアロスタミ監督本人ではないキアロスタミ監督役の男が登場。
この時点でもう物語の外の物語の外の物語の外の物語の外の......という合わせ鏡の逆みたいな無限が見えてきますが、実際監督役の男を撮る監督役の男を撮る監督役の男を撮る......と「監督役の男」が無限増殖したらなんらかのSFだなと愉快な気分になります。

しかし内容は、もはやどこが「内容」なのかも分からんけど、主役らしい男女が出てくる本筋に当たる部分は至極真っ当な結婚観の物語で、3部作の中でも一番わかりやすかった(自分に近い話題だから)です。

主人公の青年は、一目惚れした娘に結婚を申し込みますが家がないことから彼女の両親に断られます。しかし彼はそれでもしつこく付きまとう......。
まぁ日本だったら完全に通報モノですが、そこは文化の違い?と受け入れて......。彼の語る結婚観が面白かったです。というか身につまされる......。

また、本作では、一つのシーンの撮影が色んな理由で全然進まなかったり、話しかけてるのにガン無視されたりといったコントみたいに笑える場面も多くてそこも面白かった。

で、今回もラストのロングショットが印象的ですね。もう、長い!w
長々と同じ場所を移し続けてるんだけど、体を乗り出して見入っちゃう。うまい。で、説明のないハッピーエンド。そして、人生は続くのですね。うまい......。





というわけで、3部作を通観したわけですが、素朴な内容なようでいて前衛的な構成だったり、でも奇をてらったわけでもなく映画で語ることへの真摯な姿勢を崩さない、不思議な魅力に溢れた作品群でした。
シネフィルWOWOWでは今後もいくつかキアロスタミ作品をやるみたいなので引き続き追いかけていきたいと思います。