偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ウーマン・トーキング 私たちの選択(2022)


閉ざされたキリスト教の村で起きていた連続レイプ事件。女たちは馬の鎮静剤を飲まされて暴行され、残った痣や傷は「悪魔の仕業」と聞かされてきた。しかし、ある時1人の加害者が目撃されたことで事件が発覚。その事後処理で男たちが村を離れる2日間で、女たちは「何もなかったことにする」「村に止まって闘う」「村を去る」のどれを選択するかを話し合うことにし......。


予告編を観て気になってたんですけど、良かったです。


男たちによる暴力を知り、女たちがどうするか......という話なんですが、作中に村の男たちはほぼ出てこなくて、ただひたすら女たちが話し合う、あまりにもタイトルの通りな映画です。
そして、完全に全編喋ってるだけなのにぐいぐい引き込まれてしまい、題材が題材なのでこういう言い方をするのも躊躇いますが、エンタメとしても面白いんですよね。

女性たちが「キャラ立ち」ってほどわざとらしくないけどそれぞれ個性的で、議論の場において次第にそれぞれの人生が浮かび上がってくるドラマ的な面白さもあり、特にルーニー・マーラ演じる主人公のオーナと、女たちと違い読み書きができるために議論の場に加わる唯一の身体男性オーガストとの恋の切なさには泣きました。
また、あらすじに書いてあるし別にそこの意外性主眼じゃないんだけど真ん中あたりでとある事実が明かされることで観てるこっちのギアが一段階上がっちゃうような感覚にさせてくるのも上手い。ここで一気に他人事じゃなくなるというか。
あと、口を閉ざしたトランス男性のメルヴィンというキャラクターが出てくるんですけど、彼に対する女性たちの見方の変化とかもぐっと来ました。

そして議論の内容そのものが非常にスリリング。
性教育どころか読み書きすら教えられず、語る言葉そのものを持たなかった彼女たちが、事件の犯人の1人が捕まるという決定的な出来事を契機に沈黙を破るという導入がもう良い。
正直私だったら「男どもをぶち殺そう!」とか思っちゃうんですけど、信仰心の強い彼女たちはもちろんそんな大罪を犯すことなどできず、それどころか信仰のためには彼らを「赦す」べきではないか......なんてことにもなったり。そこから繰り広げられる「赦し」
と「許可」の違いの話とかも印象的だし、全ての男がそうじゃないであろうとか、自分らにも夫や息子が......みたいなのと、現実に目の前にある危機との折り合いとか、「男」が悪いというより権力の構造が悪いみたいな話とか、「会話しかない」映画なだけに、会話に関してはもうこのテーマに関するあらゆる言葉が尽くされていて、本を一冊読んだような感覚になりました。

全員が完全に納得のいく形での解決などあり得ない中で、それでも話し合いによって自分たちの進退を選択した彼女たちの行く末を思わせるラストシーンも印象的。
私はどうしてもタランティーノの映画みたいに暴力で解決したい性分なので身につまされました......。