偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

村崎友『修学旅行は終わらない』感想

大嫌いな『風琴密室』の著者による、修学旅行の最後の夜を描いた群像劇。



修学旅行の最後の夜、一馬、ごっちゃん、甚太の3人は、リークされた先生の見回り表を手に女子の部屋に遊びに行く。しかし、見回り表はダミーで、突然先生が現れ......。


個人的に『風琴密室』の青春描写がマジ許せねえんだけど、本作は結構良かったです。

とりあえず主人公たちが高校生なんだけど言動がかなり幼くて中学生かと思っちゃうのがノイズで、いっそ中学生の設定で良かったんじゃないかと思います。まぁ、小説だと思うと幼く感じるけどリアルな高校生なんてこんなもんなのか......?高校の時友達いなすぎてリアルな高校生の生態が分からん......。

それは置いといて、1話ごとに視点キャラクターを変えながら同じ夜の出来事を描いていき、それによって少しずつこの夜何が起こったのかが見えてくる......というミステリ作家らしい凝った構成が面白かったです。
少年少女それぞれの恋模様が「女子の部屋に行く」「なんか男子が部屋に来た」という状況の中で描かれていくのも爽やかできゅんきゅんします。陰キャだし女子の部屋に行ったことはないけど、中学の時の修学旅行的なイベントで好きな子と同じ班になってドキドキムラムラしたあの頃を思い出して泣けてきてしまいます。やっぱ修学旅行なんてのは気になるあの子の私服姿を見るためにありますからね!
また、1話だけ先生目線の話があって、年齢的にもそちらにかなり共感してしまうし良いアクセントになってました。
また、視点キャラにならない子たちも、酒盛り始めるバカとか、テレビをイジってなんとか有料チャンネルを見ようとするバカ、なぜか旅館の廊下で柔道の練習みたいなことをしてるバカなど、様々なバカが出てきてめちゃくちゃ青春って感じだった。

彼らの恋が全体に上手くいきすぎたり、作品全体で陰の部分がほぼ描かれないのもあって(せいぜい可愛らしい痴話喧嘩くらい)、ちょっとファンタジーにしすぎな感じはあったものの、まぁ青春っつうのはこんくらい美化されててもええんちゃうか、という気もします。男子にとっての青春の楽しいとこだけドリップしました、みたいな。
個人的にはもっと暗くてウジウジした青春小説が好きですが、だからこそたまにこういう嘘くさいまでに爽やかなやつを読むとシンプルなエモさにアテられてきゅんきゅんしちゃうんすよね。まぁでもこの修学旅行で付き合い始めた奴らもたぶんほとんどが卒業あたりまでには別れますからね。ざまーみろ!(青春へのコンプレックスの発露)