偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

加藤元浩 『Q.E.D 証明終了』全巻読破計画③ 21〜30巻

ここんとこ読むのサボってましたが、こないだ職場にケータイ持ってくの忘れて休憩中に手持ち無沙汰だったから読んだことをきっかけにまたちょっと読むのを再開するというめちゃくちゃどうでもいい出来事を経てやっとここまで読み進めました〜〜。

というわけで、ますます話のバリエーションとキャラや会話の魅力の増した21〜30巻です!



各話採点基準↓

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い




21巻


「接がれた紐」★★★3

友人らとスキーに行くことになった燈馬と可奈だが、ひょんなことから東泉グループの社長の別荘に滞在することになる。別荘では社長の息子の結婚をめぐる様々なトラブルが渦巻いていた。翌日、トラブルの中心である東泉社長が縊死体で発見され......。


文字通りの吹雪の山荘もの。
まずは被害者と他の人たちのギスギスした関係と、実際には登場しないのにそこからのみ見えてくる被害者の人間性から不穏な空気が漂って来ていいですねぇ。ミステリってこういう空気だよね、と。
事件の真相に関しては、トリックは何番煎じかというものばかり。ですが、犯人の正体とそれを裏付ける伏線は圧巻。最近ちょっとこのシリーズ読むのをサボっていただけに余計「そういえば伏線こんな上手かったっけなぁ」としみじみ思わされました。作中の全ての描写が犯人に繋がっているとすら言えます。その犯人の正体自体もなかなかよく出来ていますし、めちゃくちゃ面白いフーダニットだと思います。



「狙われた美人女優、ストーカーの恐怖 絶壁の断崖にこだまする銃声 燈馬と可奈はずっと見ていた」★★★3

落ち目の美人女優・渚幸代は狂言のストーカー被害で話題作りを企てる。しかし、(偽)ストーカー事件を担当するサスペンスドラマ大好き刑事の笠山の珍プレーによって彼女の計画は破綻して行き......。


まずサスペンスドラマ大好き笠山刑事のキャラが濃い!なんでもかんでもサスペンスに結びつけてしまう彼によって、このお話自体がサスペンスドラマパロディとしてお約束を踏んでいくように引っ張られていくのが笑えます。
しかし、彼のキャラだけで押し切るギャグ回かと思いきや、ミステリとしての真相も捻ってあるから凄いです。これまたさりげない伏線が見事に効いた良作ですね。




22巻


「春の小川」★★★★4

記憶喪失の画家・赤羽は、妻の助言に従い「大切な場所」を思い出して記憶を取り戻そうとするが、その端緒を掴めないまま日々は過ぎていく。やがて彼は、見知らぬ人から相次いで人違いで話しかけられるようになり......。


記憶喪失の画家が春の小川の側を散歩......これだけで普段のこのシリーズとは一味違う大人っぽく渋い雰囲気が出てて良いですね。
そんな雰囲気から繰り出される不可解な謎の提示も魅力的。実際のところ不可解過ぎて逆に真相が分かりやすくなってしまっている感はありますが、そうして油断していると別方向からのもう一つの"真相"に唖然。めちゃくちゃな話ですが雰囲気とストーリーで見事に説得力と余韻を持たせた傑作です。



ベネチアン迷宮」★★★3

婚約指輪を買いに来たアランは、その帰りに銀行強盗に失敗したルッソ三兄弟に人質として誘拐されてしまう。しかし、根が善人で悪事の才能のない三兄弟に業を煮やし、アランは自らの誘拐計画をプロデュースすることに......!

災厄の男・アランまたまた登場。
とはいえ今回はいつもとは違い事件に巻き込まれる善良な市民(?)の立場です。アラン自身もキャラが立っている上、彼を誘拐する三兄弟も憎めないキャラ。三人組の誘拐犯、老母、自分の誘拐事件をプロデュースする被害者と、モロに天藤真大誘拐』を下敷きにしているのが笑えます。その結果、例によってアランvs燈馬みたいになっちゃってるのも面白いところです。
大誘拐』オマージュらしく色んな意味で微笑ましい結末もGOOD。




23巻


「ライアー」★★★★4

燈馬たちはひょんなことから、燈馬のアメリカ時代の友人"ライアー(嘘つき)"・ライアンのクルーザーでのパーティーに招待される。しかし嵐に揺れる船上でライアンはナイフで刺されて死亡する。実は招待客たちは皆、ライアンに恨みのある人物ばかりだった。しかし、彼らには全員にアリバイがあって......。


嵐の船というクローズドな状況にまず燃える/萌えるのはミステリ読者の業ですよね。
そんな中でのこの事件、読んでいけば誰もが某・超有名作を思い浮かべることは必定ですが、もちろんそれを踏まえた上でさらに面白くしてるからすげえや!
解決編の最初の方では「おいおい探偵さんよぉ、アンタさも見てきたように語るけど、そんなんアンタの想像でしかねぇだろうよ?」と、犯人のようなことを思いましたが、その後の怒涛のロジックには圧倒されるばかり。あ、ちゃんと根拠あるのよね。って、いやいや、なんでこの短さでここまで緻密な話作れんだよ!すげえや!
しかもロジックメインではありますが驚きどころもしっかりあるから恐れ入りました。すげえやとしか言えねえ。



「アナザー・ワールド」★★★★4

天才数学者・レフラ博士は、「2年後に"リーマン予想"を証明する」と燈馬に言い放った。
それから2年が経ち、燈馬たちはレフラ博士に会いに行く。しかし、博士は奇妙な四行詩とそれの詩を描いた絵を遺して自殺していた。博士はなぜ死を選んだのか?そして遺された詩の意味とは......?


リーマン予想」を題材にがっつり数学ネタを注ぎ込んだ一編。
はっきり言ってリーマン予想が何なのかは結局わかりませんでしたが、分からないなりになんとなくどういう問題なのか雰囲気は掴めるのは作者の説明のうまさのおかげです。そもそも、このシリーズ、キャラクターの会話とかも分かりやすく楽しいので、きっとこの作者には天性の分かりやすく書く文才があるのでしょう。
さらに凄いのが、ミステリとしての真相の(文系にとっての)「ちょうど良さ」。
数学ネタではあるものの、ミステリとしての謎は「数学者が残した詩の意味」という文学的とも言えるもの。それを文系人間にも分かる程度の数学知識を使って解くわけですから、知的な雰囲気を味わいながらもきちんと理解は出来る、とてもちょうど良い真相なのです。燈馬くんが天才の意図に挑むというこの漫画ならではの味のある傑作です。




24巻


「クリスマスイブイブ」★★★3

イブイブの日に燈馬たちがバイトをするカラオケ店では、それぞれに事情を抱えた人たちが働いていた。やがて、彼らの間で数々の問題が巻き起こる。燈馬は絡まり合った糸をほぐして彼らに幸せなクリスマスを届けられるのか......?

色んな人たちの抱える問題が交錯する、「夏休み事件」の冬休み版とも言えるお話です。
まずはキャラクターの魅力が凄いですね。この1話のためだけに、この1話だけの短さで、よくもこんだけ愛すべきちょいダメな人々を描けるなと感心しました。
"事件"たちの解決については「夏休み事件」同様小ネタの連続ですが、そこに嫌なことへのちょっとした解決も付け足されることで、ちょっと幸せな気持ちになれる優しい群像劇になっているのが上手すぎます。作者のストーリー力を見せつけられる一編です。



罪と罰★★★★4

苦学生の千田川は、近所で噂の連続窃盗犯の模倣をすることを決める。しかし、盗みに入ろうとした家には撲殺死体が......。

打って変わってタイトルから連想される通りの暗めな話。
一種の倒叙形式のお話で、報われず世間を恨む語り手の苦学生の独白が私小説的な重さを出していて良いですね。空き巣のつもりが殺人に巻き込まれてしまい、でも空き巣がバレたくなくて偽証せざるを得ない......という心理的に追い詰められる状況設定も見事です。そして、そこからのまさかの展開もヤバいですね。あんまりヤバいから最初はよく分からなかったくらい。嫌な後味でこの24巻が終わってしまうので、個人的には「クリスマスイブイブ」と収録順を逆にしてほしかったけど、傑作です。




25巻

Q.E.D.証明終了(25) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(25) (講談社コミックス月刊マガジン)


宇宙大戦争★★★3

エナリー・クイーン率いる探偵同好会はある日4人の新入生を迎える。大喜びのクイーンたちだったが、彼らは実は同好会の乗っ取りを企んでおり......。

めんどくせえ探偵研のメンバーがまたまた登場。しかし、今回はくだらない奴らに同好会を乗っ取られてしまうという同情するしかない発端のため、私も彼らと同じように敵グループへの憎しみ満点で読み進めてしまいました。アホな人たちだけど趣味を本気で愛してるところは大好きですわこいつら。
さて、内容としては敵側のクソ野郎たちから同好会を取り戻すというコンゲーム的なストーリーになっていて二転三転の展開が楽しいです。結局の決め手はちょっと痛快さに欠けるものの、お話としては十分痛快で楽しめました。ただあのラストはちょっといけ好かないですね。そんでいいのか、と。



「パラレル」★★★★4

長野県山奥の別荘地の農業水路パイプから国立大学学長の遺体が発見される。容疑者は三人の政府高官。内閣情報調査室は事件を闇に葬ろうとするが、事件はさらなる展開を見せ......。

学校内での同好会を巡る揉め事から一転、国を動かす人々の揉め事を描いた重厚な社会派ミステリです。
私ってば単純な性格なので、これほどまでに国の重鎮たちばかり出てくるとそれだけでテンション上がっちゃいます。
内容も重厚な人間ドラマになっています。ミステリーとしての最大の見所である同期関連の部分がそのままお話としての見所でもあり、驚きと切なさと心強さとが一気に襲ってきます(最後のは関係ない)。
ラストシーンも非常に印象的で、タイトルの「パラレル」という言葉を見返してまた感慨に浸ってしまいました。物語としての傑作。




26巻


「夏のタイムカプセル」★★★3

工事現場から、可奈が小学生の頃埋めたタイムカプセルが発掘される。中には覚えのない野球の硬球が入っていたが、小学校が同じだった同級生の男子にそのボールについて意味深なことを言われ......。


自分の過去の罪とは恐ろしいものでごぜえます。今回は可奈ちゃんがそれに苦しめられるお話で、可奈ちゃんファンとしては嫌なぞわぞわ感が凄かったです。読み終えてみれば素晴らしい青春ミステリで、ほろ苦くも爽やかな余韻が残ります。
それにしてもタイムカプセルから出てきた野球のボールだけでこんな話を作っちゃうなんて凄いですわ。



「共犯者」★★★★4

可奈が両親とディナーに来たレストランで殺人事件が発生。料理人が自首するが、現場は密室で、共犯者がいるとしか思えない状況だった。料理人は店の誰かをかばって嘘の自白をしているのか......?


自白から始まるというインパクトの強い冒頭がさすが。引き込まれます。
関係者たちに恨まれていた被害者。彼を殺害した動機を軸に物語が進み、「ははぁ今回はストーリー重視の話だな」と思わされますが、どっこい解決編まで読んでみると意外な真相に驚かされます。「共犯者」というテーマをそう使うか!という......。そして、その後やはりストーリーとして綺麗に幕を引く、非常に良質のミステリー短編です。




27巻


「鏡像」★★★★4

一年間住人のいない空き家で火災が発生した。警察は亡くなった家主の家族を調べる。すると、家主にはいがみ合う双子の娘がいることが分かり......。


作者の加藤さんはトリック作りももちろん上手いですが、どっちかというとロジックメイカーなのかなぁと思います。
このお話も、派手なトリックなどは特にないですが、「そんなシンプルなことで犯人がわかるのか!」という驚きはもはやトリックです。自分でも何言ってるか分からないけど。
また、モチーフを謎解きと物語の両方に組み込む手腕も恐ろしいです。
このお話では、現場に落ちていた物体としての鏡、"逆さに映す"という意味としての鏡、鏡写しのような双子の容疑者、という「鏡尽くし」の趣向を凝らし、それが論理によって回収され、最後には関係者たちの気持ちを照射するモチーフにもなるわけです。
日常の延長にある地味なお話ですが、地味に技巧的で地味なところに人情の美しさを感じさせる地味傑作です。



「立証責任」★★★3

裁判員制度の導入に伴い高校で行われる模擬裁判のイベントで、燈馬と可奈は裁判員役に選ばれる。実際の強盗傷害事件を元にした裁判は、状況証拠ばかりの際どい状況で進行していき.....。


うちの高校でもこんな楽しいイベントやってほしかった!......って友達いなかったからやっても参加できなかったけどね!
それはともかく、実際に起きた事件を元にした模擬裁判という、ゲーム性が高い中に一抹のシリアスさがある設定が面白いですね。そして燈馬が下す結末もまた、裁判の"ルール"に則ったゲーム性の高いものにして、「立証責任」という言葉が鳴り響く余韻の深いものでもあり......。
やや物足りなかったのは、裁判員制度を扱っていながらそこまで社会派なテーマの深さはないところですかね。その点はあくまで裁判豆知識程度でした。





28巻

「ファラオの首飾り」★★★3

燈馬の知り合いの考古学者トマスは、エジプトの王墓の発掘調査中の怪我で入院することに。スポンサーにせっつかれたトマスは、燈馬に調査の代行を頼む。
しかし、燈馬は彼が調査していた王墓に不審なものを感じ......。


『C.M.B』6巻の「カノポスの壺」のエピソードとリンクしたお話です。
といっても、あちらがかなり壮大な話だったのに比べ、こちらは舞台とモチーフが特殊なだけでいつもの人が死なないQ.E.Dです。
謎解きは二段階になっていて、前半までは誰でも見当がつきそうなものですが、その後の燈馬の推理は悲しくも美しい余韻を残します。なんだかんだ舞台設定のロマンチックさを活かした良いお話ですね。可奈ちゃんのどアップにもキュンとしましたし。
ただ、悪役が燈馬に完全に見破られてるのに偉そうに開き直ってるのがむかつきますね。もうちょい遠慮がちに開き直ってほしい。



「人間花火」★★★★4

「花火師の奥元の父親である五色は、九相図のような絵を描き、人を殺して死んだ。奥元もまた、その絵に魅せられておかしくなっている」
燈馬の知り合いの民俗学者、高柳は燈馬にそう相談する。しかし、やがて高柳自身も絵の謎解きに魅入られていき......。


大阪圭吉とかあの辺の戦前探偵小説を連想させるタイトル。それに見合った不気味な雰囲気と文学性の高いストーリーが噛み合わさったお話。
九相図、人間花火、ツポビラウスキー症候群、そして闇......。怒涛のように繰り出される探偵小説ファンが歓喜するトッピングの数々が堪らないですね。
また、それらの要素がどこへ向かうのか読めないストーリー展開の不穏さを増しているのも見事です。
事件の真相自体は実はそんなに意外でもないんですが、その後のラストシーンが凄い。たったこれだけの短さのマンガで人間の心の闇を描き切った物語性の高さが凄いんです。
結末の余韻と、ツポビラウスキー症候群という言葉がやけに印象に残る傑作です。




29巻

「エレファント」★★★★4

「エレファント」が口癖の自称海賊のおじさんが街に現れた。ミステリ同好会の3人と可奈は、海賊オヤジに唆されとある会社の金庫を盗む手伝いをさせられる寸前で間一髪逃げ出す。しかし、海賊オヤジは一人では持てるはずのない重さの金庫を悠々と盗み出していた。彼の使ったトリックと、数学的な"ヒント"の意味とは......?


冒頭、夢を追うために別れる恋人たちの美しく切ない描写が......と思うとその彼氏の方が海賊オヤジになっているというギャップに萌えますねw
シリーズお馴染み、めっちゃ難しい数学の理論のなんとなーく分かるようでいて分からない図解のコーナーが充実していて楽しく「は?」と思えます。
そして、今回は犯人がわかっているので、そんな数学ネタの一つが、犯人からのヒントとして直接機能しているのも面白いですね。とはいえ私にはそんなヒント出されても分からんですけど......。
また、それとは別に(ネタバレ→)金庫を盗んだ直後くらいのシーンで海賊さんのアジトにちゃんとタイヤチューブが描かれてるという伏線もミステリの肝を外さない作者のこだわりが感じられます。
肝心のトリックも、クイズ的ではありますがシンプルにして意外なもので面白かったです。まぁこんなこと実際やったら怪しくて仕方ない気もしますが、そのためのそもそも怪しい海賊ルックなのかも(?)。
さらに!謎を解いた先にあるのが、夢を叶えようとした男と、彼を誰より理解した元恋人とのドラマであるところなんかとても私好みで、最後の1ページではちょっとじんわりと泣きそうでしたよ。短い分量でミステリとしても面白く物語としても粋な演出をしてくるこのシリーズのクオリティやっぱり異常ですよね......。



「動機とアリバイ」★★★3

剽窃の噂が絶えない大物画家の黒豆が、元教え子たちを集めた受賞祝いの席で殺害された。3人の教え子のうち、アリバイのある者には動機がなく、動機のあるものにはアリバイがないという状況に隠れた真相とは......?


爽やかな(オッサンの)青春モノのあとでこちらはちょっとドロドロ系。
絵に描いたような嫌な奴の被害者に対する動機がどんどん浮かんできてどんどん嫌な奴としての株が上がっていくのが笑えますが、そこからアリバイパズルを経て、容疑者たちの動機とアリバイがちぐはぐという状況に至るのが面白いです。
その状況に対してとある一点から繰り広げられる燈馬の怒涛の推理も勢いがあります。トリックはちょっと確実性に欠けますが、ミステリ部分は最後まで小技たっぷりでお話としても余韻の残るバランスのいい佳作です。




30巻

「人形殺人」★★★★4

頭をナイフで刺され2階から突き落とされて"殺され"たマネキン人形。そのポケットには行政法人グッドメディスンの理事長の名刺が入っていた。さらに事件はエスカレートしながら続き、厚労省ととある製薬会社の贈収賄事件も巻き込んで動き出す。
事件の陰にいる黒幕の正体とは......?


「人形が殺されると」いう、人が死ぬことは当たり前のミステリにおいてある意味それ以上に不気味な事件がまずは魅力的ですね。
ミステリとしてのネタに関しては恐らくですが、アレとアレ(本作と元ネタのネタバレ→)クリスティの『そして誰もいなくなった』と『ABC殺人事件ですよね。
そんなめちゃくちゃ分かりやすいネタでありながら、しかし組み合わせ方や演出、ミスリードの仕方などで二番煎じに留まらないトリッキーな短編ミステリに仕上がっているのが凄いです。
また、物語としてのテーマ性の中にもQ.E.Dらしさ、燈馬らしさというオリジナリティがきちんとあるのもお見事。読み終わってみれば序盤の燈馬のセリフにもにやりとさせられます。



「犬の茶碗」★★★★4

燈馬と同じ将棋道場に通う老人三人組が未来商品研究会という会社の販売会で安物の布団を法外な額で騙し売られた。話を聞いて憤慨した可奈は、未来商品研究会から合法的にお金を取り返そせと燈馬に命令するが......。


この人本当に器用な作家さんで、オーソドックスなミステリや数学ネタ以外にも様々な引き出しを持ってますよね。今回は「1st,April 1999」をめちゃくちゃ身近にしたようなゆるい老人コンゲーム
発端からして、可哀想なんだけどなんともトホホな感じ。全編にわたってコンゲームの緊張感の中にもちょっと気の抜けた雰囲気が漂っています。
しかし解決編は気の抜けたどころか少しも気の抜けないめくるめく奸計が楽しく、燈馬を敵に回しては絶対にいけないことがはっきりと分かりました。
まぁたしかに一つ一つのネタは古典的な小ネタですが、それをこういう風に構築するところが凄さですよね。お話のシンプルさも含めてとにかく読んでて楽しい一編です。