偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)

通称"ルカペリア"。
ダリオ・アルジェント監督による1977年の同名作を、「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督がリメイクというわけで、アルジェントファンとしては観ないわけにはいかないので観てしまいました。

最初にサスペリアがリメイクされると聞いた時には「やめてくれや......」と「どうなるんだろう?」という不安と期待が半々だったのですが、ルカ監督がやると知って一気に期待に傾き、実際見てみた今では衝撃とわけわかめが頭の中を支配しています。

というのも、本作は設定や大まかな筋ではオリジナルを踏襲していながら、純真無垢なまでに「恐怖の美学」を追求した浮世離れなオリジナルとは異なり、政治・歴史・宗教・芸術......といった社会的、現実的な方向へ軸足を移しているからでして......。
正直なところ私のようなFラン大学出身の無教養クソ野郎にはベルリンの壁だの赤軍派だのメノナイトだのコンテンポラリーダンスだのと言われてもなんとな〜〜くしか分からない......あ、すんません、見栄張りました今......まぁ〜〜ったくわっがんねぇ!

だから観終わった後頭ん中でわけわかめが水に浸したみたいに増え続けていくのを止められず、しかし「俺は今 観てはいけない ものを観た」という心の俳句が思い浮かびました。
オリジナルと内容はまるっきり違うのに、この背徳的で禁忌的で陶酔的な観後感はオリジナルと近いものがありました。

一方、エログロ描写に関しては、ダリオ・アルジェントは快として描くのに対し、本作では終始不快なものとして描かれていてスタンスが正反対なのが印象的。
映像はもちろん、音響も絶妙に人間の脳の不快感を司る部分を刺激してくるような気持ち悪さで最低でした。
特につらかったシーンは、前半の死の舞踏のとこ。これにはグロいの慣れてる私でも吐きました。いや、実際映画館だしさすがに吐いてないですけど、まじで食欲失せてそのあとポップコーン1ミリも食べれずに半分捨てました......。コレ、訴えたら勝てますかね?
ともあれ、血とか内臓はまだ大丈夫でもこういうタイプのグロさ(というよりエグさ)はマヂ無理ドン引き左衛門でしたよ。まぁ人によって得手不得手はあると思いますが、これから見る方はどうか覚悟を決めておいてください。これに関しては、あの人間食べ食べカエル氏も「こういう死に方は絶対したくないオブ・ジ・イヤー」と発言なされているゆえ......。

一方、終盤のグロいシーンはアート的な映像美に偏りすぎて全然グロくないです。相変わらずさっきのエグいシーンを引きずっていたのでめちゃくちゃびびりながら見てましたが、このシーンだけならユッケ食いながらでも見れます。むしろ、ここに至って監督の人を殺すことへの無頓着さにちょいむかつくほど。アルジェントならもっと気合い入れて殺すぞ💢と思う。

エロに関しても、ふとももやおっぱいが写りはするし、めちゃくちゃエロいし、ジャケ写のあの赤い紐のシーンなんかまんま緊縛ものAVなんですけど(違)、なんかこう、肉っぽすぎてといいますか、女の子を徹底して肉の塊として描いているんですね。エロ目線が入る隙がなく、ジャケ写からそういうエロ的な期待をするとイマイチですね。

で、ストーリーに関して言えば、まぁ大半わからないんですけど分からないなりに分かるところで考えると、ベルリンの壁にまつわる純愛と罪悪感の物語と言ったところでしょうか。その辺を中心に見ていくと最後かなり泣けるんですけど、泣けるけどこれでいいのかというでかい問いかけが投げかけられつつそもそも魔女はなんだったの?と、本作のメインストーリーであるはずの部分が分からなくなる......という、まぁ一筋縄には解釈できない、そもそも解釈すべきなのかも分からない......難儀な作品でありますよ、まったく。

あと、ダンスと音楽は良かったです。
コンテンポラリーダンスというらしい。調べてみたけど「現代的な新しいダンス」みたいなことしか分からなくて、その定義自体曖昧なようですが、とにかくいわゆるダンスと言って思い浮かべるパキパキしたかっこいいやつではなく、それこそ魔女の儀式のような不穏な感じの踊りで見てて怖かったけどインパクトやばいです。音楽はレディオヘッドトム・ヨーク氏が担当。ゴブリンとは違いいい意味で映像に溶け込んで印象に残らない、でもなんか後から引っかかるような音。現代音楽ってやつですかね。サントラ欲しいわ。

てわけで、とりあえず少なくとももう一回は見ないとはっきりと評価もくだせないと思いますが、とりあえず以下でネタバレありでちょっと書いて終わります。いや、まじで伏せるほど分かってないからすんませんけど。



























とりあえずオルガまじかオルガ〜〜っ!
あの場面、鏡の部屋に一人きりというところで既に気持ち悪いのに、ダンスによって人間が捻れるという異次元の発想も気持ち悪いし、なにより血とかじゃなくて小便や体液が漏れるところのリアルさがめちゃくちゃ気持ち悪くて、吐きました(だから吐いてないけど)。
あとあの人の顔がまた失礼ですけど不気味なんですよね。これ美女が捻られるならまだ見れたかもしれませんが、あの苦悶の表情の恐ろしさったら。悲鳴も実際捻り殺されたらあんな声出るんだろうなぁという感じで、最低最悪でしたわ。

ストーリーに関して。
ほんとにまるっきり分からないけど、どうやらベルリンの壁に分断された夫婦の物語らしい。
冒頭から出てた精神科医のじいちゃんが最後に「実は俺が主人公なのじゃ!」みたいなノリでラブストーリーをはじめるのには驚きましたが、その顛末には泣きました。
奥さん(なんとジェシカ・ハーパー。ばばあになったけど未だに可愛いですね)は恐らく死んでいて、魔女の力か何かで会えたということ?
老医師は戦中に罪を犯し、その罪悪感に苛まれていたようです。ラストでスージーが彼に手をかざすことで、その記憶を消す。これは救済のようでもあり、しかし記憶を消すことはその人の人生自体を消すような残酷なことでもあり......。ここんとこのなんとも言えない余韻はとにかく泣けました......。これでよかったのか......っていう。

気になるのは、エンドロール(これも美しい!)の途中でスージーが一瞬映ってカメラのこちら側、観客の方に向かって、老医師にしたように手をかざすんですね。これが何を意味しているのか。私は「観客の記憶も消した」だと思ったのですが、これに関して他の方の解釈を見てると「ベルリンの壁を消した」と言っている方もいて、解釈が分かれるのが面白いですね。なんせもっかい観ないと自分の考えも固まらないのでもっかい見たいですけどね。怖いから見たくない気持ちもある。
しかし、これだけ本作の内容が分からないのは、実は見てる間は分かってたけどエンドロールでスージーに分かっていた記憶を消されらたからだ、と考えれば一番自然な気がします(いや、そうだろうか)。

あと、この手をかざす行為に象徴されるように、「手」が重要なモチーフになっているのも気になるところ。しかし私は手にまつわる文化史とかも知らんですからね。



結局なんやらまぁ自分なりに考えてみたものの、「無知とは恐ろしい」というメタ的な感想しか出てこないのでこの辺で終わっときます。あいすみません。