偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

リバー・オブ・グラス(1994)

「ロードの無いロード・ムービー、愛の無いラブ・ストーリー、犯罪の無い犯罪映画」という最高のキャッチフレーズ通り、何もないがある映画。
ケリー・ライカート監督のデビュー作。

リバー・オブ・グラス

リバー・オブ・グラス

  • リサ・ドナルドソン
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マイアミ近くの何もない郊外の町に暮らす何もない主婦のコージー
ある日、バーで出会った何もない男リーとふざけて弄んだ拳銃を人に向けて発砲してしまい、彼と逃避行に出ることになり......。

空虚で退廃的なアメリカンニューシネマですらゼックス・ドラッグ・バイオレンスは付きものでしたが、それすらない。
娘であり妻であり母親ではあるが、結婚も出産も成り行きのようなもので、そこに人生の意味だとかそういうもんもない。
ただどこにも行けなくて何者にもなれない女と男が、愛でも、性欲ですらなくただ一緒に逃げて時間を潰すという、この間延びして引き延ばされたような退屈な時間。
しかし、それを映画として観せられると何者でもない私自身の姿を突きつけられるようでヒリヒリするし、70分ほどの短さのせいもあってか緊張感を持って観れました。
リサ・ボウマン演じる主人公のコージーのむっちりした感じとか、ふいに軽く踊ったり手を広げて縁を歩く(オタクなのでこれが好き)ような動きに、自分が今ここにあることを確かめるような、またはどこかへ行くことに憧れるような気持ちを感じてとても良かったです。
一方リーという男の何とも言えない情けなさも最高やね。ゴキブリのシーンとか、コンビニで盗みをはたらくシーンとか、情けなさすぎて滑稽なユーモアすら感じます。

そんな2人が多分互いにどこか通じるものがあって一緒に行動して、でもその中でお互いが自分の探していた人生を切り開くような新しい「何か」ではないことがすぐに分かってしまうような感じっすかね。それからの惰性がいたたまれない。

そんで映像も粗いフィルムの質感や、真昼の陽光で白く飛んでるのが空虚感を引き立てていてめちゃくちゃ好き。
夜の闇の中よりも、仕事の休憩中に車の中で真昼の太陽に今の自分を全て照らされている時の方が「こんなところで何やってんだろう」という気持ちになりますから、そういう感覚が完璧に映像になってて凄え。

本作が作られた1994年は私の生まれ年であり、本作を作った頃の監督の年齢も今の私と近いので、その先入観もあってか私自身のこれまでの何もなさすぎる半生を反省させられるようなところもあってなかなか刺さりました。

そんでネタバレになるから何も言えんけどあのラストシーンが印象的すぎる。えっ??てなりました。どう解釈していいのか、いい意味なのか悪い意味なのか、よう分からんが(いい意味でだが)間延びした映画が最後にきゅっと締められる感じで爽快でした。

一応ネタバレで。










































リーを殺して車から放り出すラスト、どこかに連れて行ってくれる存在だと思っていたリーがなんつーか彼女を停滞させていて、それを放り捨てることでひとり自力でどこかへと旅立っていく......みたいな、酷いけど開放感のある結末......と受け取ったんだけどそんでいいのかしら。
実は誰も殺してなくて逃げる必要もなくただ現実から逃げていただけのこの物語で、最後に本当に殺しをやって逃げる必要が生まれることで現実と向き合うことになるという構図が素敵っすね。