偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

民衆の敵(1931)

トムという男がギャングとして成り上がって破滅して行くまでの流れを幼少期から描いた一代記。

前観た『犯罪王リコ』などと並んでギャング映画の先駆作として評価される作品ですが、リコは正直イマイチだったのに対してこれは面白かった。


まず主人公のキャラ造形が魅力的ですね。
ちっちゃな頃から悪ガキで15でギャングと呼ばれる感じのどうしようもないクソ野郎なんだけど、その堂々とした悪人っぷりを見てるとダークヒーロー的な意味で惹かれてしまう部分はありますよね。また冷酷な彼にも母親想いという美点が一つあるから、ただ胸糞悪い悪人と割り切れずどこか応援してしまう部分もあると思います。汚れた仕事で手に入れた汚れた金を母親を喜ばせようと渡す姿にはどうしてこういう風にしか生きられないんだろうという悲哀があって印象的でした。
そんな主人公の魅力という軸が一本ありつつ、80分の短さに1人の男の子供自体からギャングになっての栄枯盛衰までの物語が贅沢に盛り込まれているので常に面白いです。
また、母親も含めて彼に翻弄される女たちの姿もしっかり哀しみをもって描かれているのも良かった。

また、そんなふうにストーリーはしっかりしていつつ、犯罪や子供の頃のイタズラのシーンではセリフを抑えて映像で魅せる工夫がされているのも凄く良かった。
エスカレーター滑り降りのシーンとか、その後の色々なミッション、馬のシーンなんかもとても印象的です。
そしてもちろん終盤の展開が一番強烈に印象に残ってます。こういう話だからああなること自体は分かってるようなもんですが、それにしてもその撮り方が今観てもなお衝撃的。このほんの少し後に起こることを強烈に仄めかしているのもエグいです。

という感じで、お話も映像も大満足の良作でした。