偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

かんべむさし『公共考査機構』感想

トクマの特選の出た時に読み逃してたやつ。

1979年発表。
舞台は近未来(当時)の日本。
"公共考査機構"による、国民の意見に視聴者の多数決で賛否を決める番組が始まる。民主主義の体現と称してその実態は危険思想の炙り出し、吊し上げ、魔女狩りに近い私刑であった......。


現代のSNSでの炎上を予見した作品......と言われれば確かにそういう見方もできると思いますが、そうした異分子の排除ということは形が変わっていってるだけでいつの時代にも行われていたんじゃないかと思います。
残念ながら、40年前にここまでそれを的確に描いた作家がいるにも関わらず今もそれは続いてしまっているわけですけど......。
どうでもいいけど、リモコンのボタンで投票できるあたり、予言というなら地デジを予見している気はしますね。

しかし、読んでいて確かに今年の新刊かと思うくらい2022年現在の最旬トピック(核兵器問題、日本の独裁化)が詰め込まれていて、その点ではやっぱり令和の新刊に相応しい作品だと思います。
むしろこれだけ現在とリンクしているのに、電電公社だの通産省だのと知らない言葉が出てくるところに奇妙な異世界感がありました。

内容としては、主人公の日高という男が"番組"に出演させられてしまう......というのを主軸に、番組が作られていく過程と並行して語られていきます。
日高のパートでは国という大きなものに踏み躙られる理不尽さへの憤りと、それに気づきもしない、あるいは気づいていながら要領良く立ち回る奴らへの怒りが描かれていきます。私見ですが、怒りというのは最も共感しやすい感情だと思うんですよね。この日高さん激おこパートが入ってくることで、一気に日高に自己投影してしまっちゃうんですよね。
そして、そこで自己投影させられているからこそ、日高が保身を取るか、プライドと友情を取るかというのが、読者自身の選択として突きつけられてくるのが上手いっすよね。なんせ、読者はもう気づいていないフリは出来ないですから。どちらかを選ばざるを得ないわけですね。
私ならどうだろう......若い頃なら絶対にプライドを曲げなかったと思いますけど、今はそう言い切る自信はないっすね......。
しかしなんにしろ独裁に与しないようにプーチンや安倍には死ねと言い続けていきたいですね......なんて言える世界であれ。

あと、Twitterの使い方も気をつけようと思いました。

あれは、人間を卑しくしますからね