偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

SHE SAID/その名を暴け(2022)


ニューヨークタイムズの記者ミーガンとジョディは、ハリウッドで数々の名作を手掛けた大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年にわたるセクハラ・性暴力を暴き出そうとする......。


2017年に記事が発表され、2019年にはワインスタインが逮捕。#Metoo運動を社会現象にまで発展させた、ごく最近の事件を描くドキュメンタリータッチのドラマです。


今年は映画観るイヤーなので、映画館にもガンガン行こうと思い、ちょっと気になってたけど例年ならレンタル待ちしてたであろう本作を観てきました。
すげえ良かったです......と言うとテーマの重さ的に不謹慎かもしれませんが、重いテーマを真正面から重く描きつつ、あくまでエンタメ映画として観ても面白く作られてるのが素晴らしいと思いました。

とにかく派手さや大仰さを一切排した渋い取材ドラマになってます。悪役が「悪役でござい」って感じで出てきたりせず(実際ワインスタインはほとんど出てこない)、謎の陰謀で主人公たちが襲われたり逃げたり、声を荒げて正義を訴えたりとかそういうのが何もなくて、淡々とリアルに描かれてるんすね。
でもそういう過度な演出を排したテーマへの真摯さそのものが緊張感になってて終始ハラハラ......というよりはヒリヒリしながら観ることが出来ました。
キャリー・マリガン演じるミーガンとゾーイ・カザン演じるジョディの2人の主人公も変にキャラ立ちさせることなく、表情や仕草や家族との関わり方とかからさりげなく人柄を見せてるのも良かったです。

「告発」と漢字で書いてしまえばたった2文字ですが、報復への恐怖、恥じ、どうせ潰されるという諦め、かつて取り合ってもらえなかったという怨念など様々な理由に加え、そもそも口外禁止の書類にサインさせられ泣き寝入り的に示談になっているケースがほとんどだったりして、たった1人の実名の告発を得ることすら困難。
それでもめげない2人の静かな情念と、勇気を持って告発した彼女の強さに胸打たれると共に、どうしても出来なかった被害女性たちの傷跡もまた印象に残りました。

そんなこんなで最後には現実の通りワインスタインを告発するところまでやるんですけど、それを正義の鉄槌とかスカッとする復讐みたいなニュアンスを入れずに描いているのも良かったです。もちろん2人の努力と彼女の勇気が報われる結末で安堵や達成感のようなものは感じられるのですが、それはそれとして、ようやく一歩前進しただけという感じもあります。
だってあんなことがまかり通ってること自体がただただおかしいのに誰もおかしいと言えなかったんだから、それがようやく暴かれたくらいで喜んでもいられないし......。

という感じで、現実にはまだ問題だらけで絶望するものの本作自体はエンタメとしても面白く、襟を正される素晴らしい作品でした。