『少年たちのおだやかな日々』に続く、日々シリーズ2冊目......とは言っても、どちらも全話が独立した短編集で、特に話の繋がりなどはあるわけもないということでこっちを先に読みました。
- 作者: 多島斗志之
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2009/04/16
- メディア: 文庫
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本書は「私」こと中年の主に主婦業の女性たちを主人公に、彼女たちの日常と、そこから少しずつはみ出していく様を描いた短編集です。
ミステリーでもなく、ホラーでもなく、「イヤな話」と言いたくなるけど後味はイヤ過ぎない、多島ワールドとしか言えない作品ですね。
1話目はオチがなかなか決まっていますが、それ以外はオチも弱めで、なんだか特徴を挙げていくとあんまり面白くなさそうなのですが、しかし独特の雰囲気はハマればハマる気がします。私はなかなかハマっちゃいましたね。
なんだろう、一言で言うと、「あっけらかんとしたイヤな物語」とでもいったところでしょうか。
日常が侵食されていく様を、じわじわとリアルに描いて、足元がゆっくりと崩れていくような感覚を味わいつつ、オチは「俺たちの日常はこれからだぜ!」みたいな感じで、クライマックスで唐突に終わるような......うーん、いかん、やっぱり説明しようとするとつまらなそうになりますが、とにかく多島作品の雰囲気の部分が好きならば読んで損はない一冊だと思います。
以下各話感想。
「取り憑く」
パート先の主婦仲間に半ば無理やり芝居に連れていかれた私は、彼女が追っかけをしている若手俳優のことが頭から離れなくなり......。
俳優にハマってる仕事仲間を醒めた目で「あんなおばさんが馬鹿みたい」と見ていた主人公が、実際にその俳優に会うと一気に頭がイッちゃうのが笑えます。ストーカーとしてのスキルを着実に高めていきつつ本人はあくまで節度あるファンのつもりでいるのも恐ろしくも笑えます。主人公の一人称で進むからどこか彼女の立場から読んでしまうのも恐ろしいところですね。
そして、このお話は本書の中でも最もオチが決まっていて、在りし日の『世にも奇妙な物語』を彷彿とさせます。この感じを次以降の話にも期待すると肩透かしになるので注意が必要ですが......。
「めぐりあい」
学生時代に付き合っていた男と偶然再会した私は、流れで彼と寝てしまうが......。
おばさんになる悲哀といいますか、旦那ともセックスしなくなって、ついつい昔の男に燃えてしまうところの描写から昭和の香りがぷんぷんして良いですね。
しかしそこからのイヤな展開がまた良いんですよねぇ。一度こうなってしまえばもうずるずると日常を侵食されていく、その取り返しのつかなさと後悔と......。
オチは特に意外性もないですが、このさらっと終わる感じも良いですね。
「教え子」
夫の甥の結婚式に出席した私は、花嫁を見て驚く。彼女は、私のかつての教え子......しかも少年院に入っていたこともあるような札付きの不良生徒だったのだ......。
今回は主人公vs邪悪な小娘の丁々発止のバトルが楽しめます。
小娘がほんと絶妙に邪悪なんですよね。いそうな具合にというか。デフォルメしすぎてありえないようなサイコ野郎になることもなく、学年に1人くらいはいそうな感じの悪人。そのリアルさが怖くてめちゃくちゃ主人公を応援しました。
しかしそういう奴に限って外面良くするのが得意だから、周りの誰も彼女が悪人だとは思っていなくて孤軍奮闘することになるのがかわいそう。
ただラストはあまりにあっけらかんとしているので結局この話はなんだったんだと思ってしまいます。その読後感の不思議さも多島斗志之の魅力の一つでしょう。
「預け物」
こちらは以前書いた『追憶列車』と被るので割愛します。
「記憶」
痴呆が始まった父の様子を見に、弟夫婦が住む実家に帰った私。父は時折裏山の同じ箇所を掘り返しに行くという。そこには何があるのか......?
状況設定が見事。
主人公と弟夫婦と父との関係の生々しさ。そして、ボケた親が自分の知らないなんらかの"記憶"に従って山中を掘り返している......という出来事の不気味さ。老人の奇行という、まぁなんてことない話ながら、ホラーな雰囲気がむんむんと漂っています。
そしてオチも大体は読めるものの、ちょうどよく小綺麗にまとまっていて好きです。
「旅の会話」
友達同士の女三人で旅行に来た私。しかし、経営する会社が危ない状態の友人は、「あんたたちも不幸な話を聞かせなさいよ」と迫る。それに対してもう一人の友人がした話とは......。
気の強い友達のズケズケした言い草がいちいち笑えます。こんな友達いたらちょっとめんどいけど、きっとそんなに悪い人ではなさそう。
そんな彼女のおかげでシリアスな中にもなんとなーく良い意味でしょうもない雰囲気があるので読みやすかったです......などと気を抜いているとラストでガツンとやられます。まぁこれも見え見えではありますが。それよりも、そのオチの後のどう考えても明るくはない話なのにどこか爽やかにすら感じられる締め方が良かったです。
「ねじこむ」
夫から会社をクビになると聞いた私は、その元凶の上司の家にカチこんで談判をはじめ......。
主人公の行動がぶっ飛んでいてまず笑いましたが、前半で明かされる事実にもちょっと笑いました。なんというヘンテコな状況だよ......。
「夫をクビにしないでくれ」というだけの話ですが、主人公の舌鋒の鋭さ......理屈ではなく感情で話していることのパワー......が強いですね。そうした語りの勢いだけでこれだけの話をここまで広げ、最後はぬけぬけとしたオチに持って行くところがお見事。最終話だからといって特に締めっぽいことはないですが、このあっけらかんとした終わり方は本書を象徴するようではあり、結局この本は何だったんだろうという変な余韻を残します......。