偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

沓名真由『MOMENT』感想

はい、本日ご紹介するのは沓名真由さんの『MOMENT』というアルバムです。
この作品、私もサブスクをうろうろしてたらたまたま見つけたんですけど、一聴して「あん、気持ちいいぃぃ💖」となったので、その魅力を知ってもらいたく、こうしてブログに書くことにしました。

MOMENT

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  • 沓名真由
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沓名真由さんは1995年生まれ、2020年より活動を開始したシンガーだそうで、それ以上の詳しい情報とかは特にないんですが、95年生まれなら1個下、誕生月によってはワンチャン同級生なので親近感が沸きます。
本作は2022年にリリースされた9曲入りのデビューアルバムで、現在のところ唯一のアルバムでもあります。

沓名さんの最大の魅力はやっぱりその声でしょう。あどけなさの中にアンニュイな儚さがあり、ただ可愛い声とか透き通った声とか言うだけじゃ表現しきれない、なんつーか耳に響くんじゃなくて心臓を撫でられるような、あるいは脳みそを掻き回されるような、ゾクゾクする声なんすよね。
そして、メロディの不協和音っぽい瞬間が結構あって、この声でそれやられるとまたゾクゾクしてしまいます。
アレンジはインディーロック、ギターポップみたいな雰囲気を中心にしつつジャズっぽかったりワルツだったりもあって、なんにしろ全体に気怠い感じが堪らん。お休みの日の昼と夕方の間くらいの1番明るいけどこの後暮れることをも想起させる強烈な寂しさもある時間のようなイメージのアルバムです。
歌詞もいい意味でそんなにインパクトは強くなく、さらっとシンプルで美しい日本語が並んでいて聴き心地がよすぎる。曲名だけ見てもほとんどが2〜4文字の簡潔なタイトルで好き。
あと、これはまぁどうでもいいんだけど、MVを観たらルックスがガチでタイプだったので、もちろん曲だけ聴いてた時からハマってたけど最後のひと押しで落ちてしまいました、恋に。可愛すぎる......。派手さはないから「この町で俺だけが彼女の可愛さを知っているんだ......」と思ってる男が町に1000人いそうな感じ。妻に紹介したら「文系のオタクってこういう娘が好きよね」と言われた。
そんな感じでめっちゃ良いのですがまだ全然知られていないのでみんな聴いてね!

以下各曲についても少しだけ。


1.まなざし

イントロからして穏やかさの中に強い不穏さが混ざる最高のギターの音色にやられました。
君の話、君の話、君の話、のところでリズムを遅らせる感じも絶妙に気持ち悪くて気持ち良い。
アウトロで一気にギターが炸裂するのも最高である。

八月の雨 テラス席の奥で
君の話 君の話 君の話だけを
降り止むまで苦いダージリン
甘い話 甘い話 甘い話してよ

最高のシチュエーションすぎる。


2.陽炎

気の抜けた感じのヴァースが気持ちよくて良い意味で寝そうになるんだけど、サビのメロディはなんかもう強烈に切なくて心臓止まりそうになる。

あなたに届くように でも届かないように
"好きだったの"なんて言えたら

グエッ(断末魔)。


3.NOVA

これも穏やかでややアンニュイなギターがエモい曲。歌い出しの「やめて、」が可愛すぎて死んでしまう。長めのアウトロのギターソロもめちゃ美しく、すぅ〜っと消えていく終わり方も最高。

やめて どこからかもらった言葉なら
言って 余りある幸せをそのまま

4.琥珀

アコギ弾き語り風のアレンジで奏でるワルツ。フィンガーノイズ多めのアコギの音が気持ち良い。2番からはストリングスも入ってきて心地良すぎて寝ちゃう。

曖昧を覚えている
影踏みの恋 あけびの花
波の跡 罪の在り処
秘密の話 頬を寄せて

なんっか、えっち!
......幼目、微熱、神様とか出てくるので、かなり空も飛べるはずな歌詞ですね。絶対スピッツ好きやろこの人。


5.セツナ

ピアノ始まりでウォーキングベースのジャズっぽい短めの曲。
1番が終わってすぐ間奏に入る構成もおしゃれだし、2番の「悪魔にでもなれる」あたりの登っていく感じも良い。

髪巻いたのひとり 君の手を引いたって
ほどかれてしまいそう
その心が色を変える前に
この刹那だけを見ていて 守っていて

終わりの予感を見つめながらこの刹那を歌う切ない歌詞も良い。


6.満ち欠け

1音目のギターからもう不穏で素晴らしい。綺麗なギターとめちゃほわんほわんしたエフェクトのかかったギターの2本が絡み合うイントロが最高。このアルバムの中でも特にイントロが好きな曲です。
声もなんかちょっと一枚幕を通したようなエフェクトがかかってる気がして、なんかラジオから聞こえてくるみたいな感じで良い。これも間奏はめっちゃジャズ感強くオシャレっすね。
月の満ち欠けに恋を仮託した歌詞は、月の巡りから季節の巡りも描いたもので、一曲の中で春夏秋冬が並べて描かれるので時間が乱反射しているような感覚にもなります。
あとユーミンがめっちゃ出てくるのが良い。

カーラジオ誰か流す
ルージュの伝言
あなた今どこで
誰と笑ったり泣いたりして

7.眠れない

このアルバムの中でも特にローファイな感じのサウンドで、眠れない夜に寄り添うような優しさがあって心地よい曲。
全体にメロディラインもちょっとボヤッとした感じで、最後の方の「霞むように」のところではボヤッとどころかグニャッとするところも凄く違和感があって素敵。
後ろでかすかにシャラシャラした音が鳴ってるのも綺麗。

通りですれ違った 嵐がすぎるように
本当の恋をしたの 振り返ればあなたが

8.銀河

これはなんか分かんないけどすごく心がザワザワする曲です。イントロからしてそうだし、歌い出しの「流星は〜」のとこのメロディとかもなんか心臓を鷲掴みされるような、もはや苦しいくらいのエモさがある。
終盤は歌も演奏もかなり盛り上がるのでより苦しくなってしまってもはや聴くのがつらいくらいエモい。なんでこんなにエモく感じてしまうのか分からん。最高。やばい。語彙力が消えたのでブログ書く意味ない......。

ト・ピン・シャン ト・ピン・シャン
綺羅星の下で
あなただけに教えたおまじないを
ト・ピン・シャン ト・ピン・シャン
唱えてみるの
叶う時が来るまで消えずにいてね

グエッ。


9.或る晴れた日の午後に

練習曲みたいなシンプルなピアノに乗せて歌われる短い曲で最後の曲らしい最後の曲です。
演奏がピアノだけだからより声が際立つし、この曲は特に歌い方も淡々としてて変に感情を込めていないので素材の良さを味わえる的な良さがあります。