偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

CUBE 一度入ったら、最後(2021)


目が覚めるとキューブが連なる建造物に閉じ込められていた男女6人。彼らは部屋を渡り歩きながら脱出経路を探すが、いくつかの部屋には死の罠が仕掛けられていて......。



ヴィンチェンゾ・ナタリ監督による1997年の低予算の傑作『CUBE』の、2021年日本リメイク版。
いや、なんでやねん!
なんで低予算映画の金字塔的名作として評価の定まったあの名作をわざわざ今日本でやるんや!?
いやまぁ、なんでかって言ったら、コロナ禍での閉塞感とCUBEに閉じ込められる怖さを重ねているのは分かるし、実際酷評されまくってるけど原作を度外視すればそれなりに面白い映画だったとは思いますけど、なんせ原作が偉大。
あれをわざわざリメイクして、まぁそのまんまなぞるだけじゃ意味ないにしろ、本作は全てにおいて原作より良いところがない。まぁ強いて言えばキャストが豪華くらいだけど、それすら無名俳優ばかりだからこそリアルな怖さのあったオリジナルの良さを消しているとも言えるしな......。

なんせ謙譲を美徳とする日本人にこういうデスゲーム的な世界観がそもそも似合わない感じがします。斎藤工だけがやたらグイグイとみんなを牽引してくれて頼もしいけど他がみんな自分は意見とか別に......みたいな感じなので観ててちょっとイラついてしまう。
あとこの状況で理屈より感情で動くあたりも理知的なパズルっぽいCUBEのビジュアルにそぐわなくて違和感を覚えてしまうし、キューブそのもののルールもなんか曖昧でなんで今罠が作動するの?とか色々とツッコミどころがあってアカンかった。
1人めちゃくちゃ嫌なクズ野郎がいて、そいつがお約束通り無惨に死ぬのはスカッとして良いんだけど、そこら辺があまりに絵に描いたような感じの嫌な奴とサイコパス(多様性のためにこういうサイコパスキャラを出さなきゃいけない決まりなのか?邦画は)なのも「あ、はい」という感じ。そしてせっかく嫌な奴をぶち殺したのに「だからって殺さなくても」とか正義ぶる菅田将暉がウザくて「うるせー映画の中でくらいゴタゴタ言わずに悪人はスカッとぶち殺してくれや!」とキレてしまった。

オリジナルにあった社会風刺的な側面を本作も受け継いではいるんだけど、それを全部セリフで説明してるのもダサくて、せっかくこんな寓話的な舞台装置があるのに全部言っちゃうならもうキューブの外でやってくれや!と思ってしまう。
オリジナルになかった結末もまぁ遊び心とも言えるけどあそこだけ変に軽くなってて蛇足にも感じるし星野源の主題歌もなんか明るくて、曲は好きだけど合ってないように感じた。キングヌーとかでええやん。

という感じで、なんかまぁ別につまらなくはないけどオリジナルと比較すると邦画の悪い面ばかり出てる感じがしてこれを『CUBE』のリメイクです!と世界に向けて出すのはなんか恥ずかしく感じてしまう。
あとオリジナルとの差別化で仕方ないとは言え副題もダセえ。勝手にCUBEに入れられてんだから一度入ったらもクソもないでしょ。こんならもうCUBE JAPANとかでいいわ!