偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ムカデ人間2

食後にこんなん見たくないよ〜って言ってんのに妻に無理やり観せられましたが結果的に超傑作だった。

ムカデ人間2(字幕版)

ムカデ人間2(字幕版)

  • マディ・ブラック
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ムカデ人間』に憧れる精神障害者の警備員マーティンが、聖典を超える12人の連結に挑むというお話。

前作の模倣犯という設定に最初はメタやなぁと思ってたんですが、むしろ本作を作るためだけに『ムカデ人間』という映画を先行型作中作として作っておいたのでは......などという妄想をしてしまうくらい、素晴らしい映画でした。
虐待被害者で社会的弱者、そして『ムカデ人間』オタクの主人公には(やってることは悍ましくとも)感情移入せずにはいられないし、オタクに憧れる似非オタクの私としては一つの作品をここまで推せる彼の熱意が眩しいほどでした。
一方で殺されたりムカデ材料にされる人間たちはわりと嫌な奴らが多いのもあり、意外と普通のスプラッタ映画みたいに殺人鬼を応援しながら観れる娯楽性もあるんすよね。
ただ、描写のエグさはスプラッタとかとは別物で、本気で観客に不快感を与えることだけを狙って作ってる感じが凄い。いわゆるゴア描写はご飯食べながら観れる私ですがこれは何度か目を背けてしまいました。だってグロとかじゃないっすからね。グロじゃなくて下痢ですもんね。

本作のテーマとして私が読み取れたのはホラーバッシングとか反出生で、どちらも関心があるしどちらも今リアタイで注目されている事柄でもあり、テーマ的には結構時代を先取りした作品だったのかもしれない気がします。
ホラー映画の影響でキモいオタクが事件を起こすんだというホラーバッシングへの皮肉を、前作を丸々作中作として利用してやってのけるっていう尖った発想がもうやばい。そして、ラストシーンがある種こういう悪趣味な映画への讃歌のようでもあり、めちゃくちゃエモかったですよね。あと念願のムカデ人間完成を喜ぶ主人公の可愛さよ。稚拙でも情熱があればそれでいい、全てのオタクが胸に刻むべき名場面です。
そして主人公の生い立ちをはじめ、赤ちゃんにまつわるとあるシーンなど、反出生的な視点がいくつも見られて優しかったです。

あと、演出の面では映像がモノクロでセリフも全体にかなり少ないのが本作の特徴になってます。
モノクロに関しては、前作が作中作なのに対して本作は作中現実であるというスタンスでありつつ、現実である本作の方に色がないというのが意味深で良かったです。また、モノクロ映画によく合う雨や血、鉄、人間の肌などがちゃんと映されてるのも綺麗でよかった。
音に関してもセリフが少なくノイズっぽいBGMや悲鳴などの不快な音ばかりがたくさん入ってて本当に嫌な気分になりました。

そんな感じで二度と観たくはないけど、不快感を極めるということへの全力投球と社会風刺であり哲学的で文学的でもある深みあるストーリーがあまりにも強烈なインパクトを残す傑作。