偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

見知らぬ乗客(1951)


テニス選手のガイは列車の中でブルーノという男に出会い、交換殺人を持ちかけられる。離婚に応じないガイの妻と、口うるさい父親との交換殺人を一方的に約束したブルーノは、本当にガイの妻を殺害してしまう。
当然彼の父親を殺しはしないガイだったが、ブルーノは彼に付き纏うようになり......。


面白かった!
タイトルから勝手に列車内で殺人事件とかが起こるミステリーだと思ってたら別に列車はそんな関係なかった。

冒頭、タクシーから降りて列車に乗る主人公ガイと敵役ブルーノの邂逅を足元だけのショットで映す演出からしてカッコよく、その後もブルーノがガイの妻を殺すシーンの夜の遊園地の美しさや眼鏡のレンズにだけ映る殺人シーンの撮り方など、とにかく映像的な愉しさに満ちています。モノクロ映像と夜の遊園地がめちゃくちゃ合うのな。色付きよりもどこかいかがわしい妖しさが強調された異界感があってドキドキワクワクしました。

中盤では一旦映像のカッコよさは大人しくなって、頭のおかしいブルーノに追い回されつつ恋人やその家族には彼とのことをヒタ隠さなきゃいけない板挟み状態の主人公の苦悩がサスペンスフルに描かれていきます。
まぁブルーノさんが狂いすぎててイライラ直前になりつつ、むしろ狂いすぎててどこか哀れですらありつつ、変人に巻き込まれサスペンスの愉しいスリルを満喫しました。
まぁ、正直さっさと警察に言えよとは思うけど、昔の映画の中の警察ってめちゃくちゃ無能だから冤罪平気でやるしまぁ言えないわなという感じもありつらい。
このブルーノさん、なんとなく前観た『狩人の夜』のサイコキラーさんに似てる気がしたが別人でした。
このガイとブルーノの関係性の、敵対してるけどどこか友情とか愛情めいたものすら感じさせる濃さにもなんとなくドキドキさせられます。たぶん気のせいじゃなくて同性愛的な含みを持たせた演出だと思うし、ブルーノがガイの心のダークサイドを表しているようにも見えて面白いです。

そして中盤一旦ゆったりになった後のクライマックス近くで早いカットバックや派手なアクションを打ち込むスピード感の上がり具合にまたテンション上がるという緩急も素晴らしい。あの状況を考えつくのがもうサスペンス映画の神様って感じします......。
オチはなんかいかにも昔のサスペンス映画っぽい「オチです」って感じのオチで(雑)、シンプルに映画一本見終わったなという満足感がありよかったです。