偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

太陽を盗んだ男(1979)

青春の殺人者』の長谷川和彦監督の2作目にして現状では最後の監督作。



無気力な中学校の科学教師の城戸は、原発からプルトニウムを盗み、自宅アパートで原子爆弾を作りはじめる。
原爆を完成させた城戸は、県警の山下警部を交渉相手に指名し、ラジオDJの零子も巻き込んで数々の無意味な要求を突きつけていき......。


原爆を手作りするという設定や、それを盾に無茶で無意味な要求をしていくというあらすじこと荒唐無稽に見えますが、しかし登場人物たちの生々しい存在感にはリアリティがあるのが素晴らしい。
無気力で世の中に無関心ないわゆるシラケ世代の主人公が、バスジャック事件をきっかけに親世代である山下警部への強烈な敬意と反感のようなものを抱いて原爆を作り始めるという発端は前作『青春の殺人者』の親殺しのテーマの変形のようでもあり、正反対の2人の対立にはBL的な萌えも感じられます。

そんな主役2人、主人公の城戸誠をサワケンこと沢田研二(ちゃう、ジュリーや)、相手役の山下警部を菅原文太さんが熱演。
魔界転生』などで魅せたサワケンの美男子っぷりも今回はやや抑えめで、もさっとした冴えない雰囲気。でも個人で原爆作れるくらいの超人でもある主人公の熱量と虚無感を、画面の向こうに引き摺り込まれて同化させられちゃうくらいのリアリティで見事に演じ切っています。部屋で訓練するシーンは『タクシードライバー』ですよね。特に、アレして以降どんどんアレにななっていく部分の強烈な悲しみや孤独を感じさせるところが圧倒的。
一方の文太さんの山下警部は『ターミネーター』みたいな。迷いがなく堂々としていて、不死身(笑)。男らしさを体現したようなその在り方には今観ても強烈なカッコよさを感じます。男らしくない私としては、山下のカッコよさゆえに城戸に感情移入もしちゃいます。
そして、ヒロインのDJ ゼロを池上季実子さんが演じます(美しすぎる......)。彼女は賢くて木戸とは違ってデキる人間なんだけど、そんでも明るい振る舞いの中にどこか投げやりさがあって城戸に共振していく様が凄くよかったです。

2時間半くらいある長めの作品ですが、全編にわたって虚しいエネルギーが漲っているのと、原発侵入からカーチェイスに至るまで単純にギャグすれすれみたいな強烈なシーンが続発しているため飽きないどころか観終わるともっと浸っていたかったと思うくらい夢中で観れました。というか2回目なのにこんなに夢中になっちゃうのすごい!