偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』感想

本屋さんで目が合ってしまったので買っちゃいました。


36歳の魔法少女が活躍する表題作や、性別が禁止された学校、若者が怒らなくなった世界など、奇抜な設定の中での登場人物の動きをシミュレートした思考実験のような趣もあるヘンな短編集。
表題作はかなりポップですが、2話目以降はけっこうエグ味もあり、でも全体にかなり読みやすい1冊。面白かったけど、今まで読んだ村田作品の気持ち悪さを期待しちゃうと若干物足りなくは感じてしまいます。
以下各話感想。



「丸の内魔法少女ラクリーナ」

魔法少女歴27年の36歳女性が主人公の、設定だけでインパクトが凄い表題作。
ただ内容は(著者にしては)エグみが少なくてさらっと読めて短編集の導入としては良い感じの1話目です。
とにかく「魔法少女」という字面と、友達のクズ彼氏という俗っぽい敵キャラ(?)のギャップが凄い。普通に描けば胸糞悪くなりそうな題材がキュートでリリカルな感じになってんのが面白いっす。
クライマックスのシーンのシュールさなんか最高でしたね。めちゃくちゃ面白いけど実際にあの場には居合わせたくない感じ。



秘密の花園

カジュアルに大学の同級生の男子を監禁する女の子の話。これも「監禁」という題材と加害者被害者双方のノリの軽さのギャップが面白い。
これは最後の方は結構エグい感じもするけど、結果的には良い話なので読後感は爽やかです。いや、これを爽やかと思うのはおかしいのか?どうなんだろう......。
てか、この結末ちょっとミステリっぽくて好きです。



「無性教室」

小学校から高校まで、学校では性別が禁止された世界のお話。
ジェンダーフリーなようでいて、性自認を否定するような世界で、「女であることは悪なのか?」と悩む主人公を通して読者のジェンダー観も揺さぶってくる作品です。
嫌らしいのが、作中で模範とされる生徒像が実質「中性的な男性」なので、主人公をはじめ結局は女性が抑圧されることになるんだけど、ぱっと見だとこの模範型が「中性」に見えてしまうんですよね。
そして、恋する相手の性別も分からない状況によってセックス観もまた揺さぶられます。全ての固定観念がずるずると溶けて流れていくようなラストシーンのエグさがすげえっす。



「変容」

これは若者から「怒り」の感情が消えた世界のお話。主人公は40くらいなんだけど怒りはまだ持ってて、怒らない若者たちやそれに感化されて怒らなくなった同世代に強烈な気持ち悪さを抱いています。
私もかなり怒りっぽい方なので、これにはめちゃ共感するんですが、意地悪なのが主人公たち世代はセックスをしなくなった世代だったりして、一旦共感させといて「いや、お前もかい!」みたいになるっていう価値観の揺さぶりを仕掛けてくるんですよね。
作中で「なもむ」という感情が描かれていてなんじゃそりゃと思うんだけど、例えば「エモい」とかでも使ってる我々世代からすると「エモい」としか言いようのない感覚なんだけど上の世代からは理解されなかったりするわけで。
そういう、感情とか性格とかも社会や時代によって規定されているのでは?という問いかけが気持ち悪くもどこか優しい視線で描かれていて、なんとも言えぬ読後感が残ります。
エクスタシー五十川さん、最高でしょ。