偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ポンヌフの恋人(1991)


アレックス三部作の3作目。
昔からタイトルは聞いたことあったけど「きみに読む物語」とかあんな感じのロマンスかと思ってたら全然そんなことはなく、燃えるような破滅的な愛を描いた傑作でした。あんなもんと一緒にしてごめんなさい。


ポンヌフ橋で暮らす路上生活者のアレックスと、眼病を患った美大生のミシェルの破滅的な愛を描いたお話。

実在のポンヌフ橋を貸し切るつもりがスケジュールの都合で無理になって郊外の街に橋をセットで作った結果巨額の制作費がかかってしまい完成すら危ぶまれた......という曰くつきの作品らしいです。
なんでも制作費は当時フランス映画史上最高だったらしいですが、いい意味でそんなことは感じさせないアングラ感があってめちゃくちゃ良かったです。

アレックスはもちろん、ヒロインのミシェルも前作のアンナと同じ人が演じてるとは思えないほど2人とも雰囲気がガラッと変わってて驚きました。
前作では少年少女という感じだったのがすっかり大人になって......みたいな。特にアレックスは坊主頭になることで顔の荒っぽさがダイレクトに分かってかなりのイメチェン。
映像もバキバキに決めてた前作までと比べてあえて手持ちカメラでブレさせたようなシーンもあり、作りもの感が薄まって地に足がついた印象があります。

お話はというとこれまで以上にどうしようもなくノーフューチャーな感じの2人のラブストーリーで、未来が見えないからこそ今だけに命を燃やすような激しさが強烈にエモくて、3作の中でも突出して好きです。
地に足ついたといっても、やはり夢のような美しい場面や悪夢のような場面もいくつもあり。
特にやっぱ有名な火吹き踊るシーンは凄かった。燃える情念、走る焦燥、衝動。映像だけでこんなに魂を掴まれて揺さぶられることなんかあんのかよってくらい。歳とって感性が鈍ってきてたからいいものの、これを恋の季節に観てたら相手の家に放火くらいはしてたわ絶対。
あと、地下道に火を放つシーンとかも圧巻でした。

後半の、ミシェルをなんとか去らせまいとする強烈なエゴが、ゆったら最悪なんだけどめちゃくちゃ分かってしまうんだよね。恋のためなら赤の他人の命なんか蠅くりいのもんだし、相手の目なんか見えなくなった方がいい!くらいの身勝手さ。それだよそれ。恋って。

しかし、そんな無軌道なメチャクチャな暴走をしつつ、ラストはこれまでの作品とは趣が異なります。正直昔の自分だったら日和りやがってと思ったと思うんだけど、今はもうこれが最高!
あと最後のアレ、地味にあの超有名作の元ネタだったりすんのかな。

以下、三部作全部のネタバレしつつ一言だけ。

























































ボーイミーツガールはなんか2人とも死んだ(?)みたいな最も破滅的な結末だったのに対し、汚れた血では主人公が死によってヒロインたちを解放するような男目線のロマンチシズムな話。
そして、本作ではついにヒロインが主人公(と自分)を煌めく未来へと解き放つような最も外向きで最も女性的な感じもする結末になり、三部作が進むにつれどんどんハッピー寄りな終り方になってんのがエモかった。
恋の季節の私だったらこの結末をヌルく感じてたかもしれないけど、今はもう大人なのでこれが凄く心地良かった。それは感性の摩耗なのかもしれないですけどね。