偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』

麻耶雄嵩の作品で唯一未読だったこれを読みました。
というのも、以前第一話をアンソロジーで読んであまり面白くなかったのでそのまま放置していたわけでありまして。

全部読んでみて、第一話が特に面白くなかったのだと分かりつつ、それ以外も麻耶雄嵩という名前への期待度からするとイマイチと言わざるを得ないかなぁ、と。

麻耶さんらしく名探偵の在り方についてのとある趣向があったりもするんですけど、それが尖ってはいるものの出オチみたいな感じで、第一話は驚いたけどそれ以降活かしきれていない感じもあり。
トリックは面白いのもあるけど全体に脱力方面だし、ロジックがどうこう言う前にぬるっと解決しちゃう感じで、1話1話がそんなに。
ってのと、青春小説要素が濃いわりに、キャラを全く好きになれないのは良いとしても最後まで読んでも青春小説としての解決がなく、もやっとさせられます。

まぁ、麻耶さんらしい捻くれた話ではあるし、霧に閉ざされた街という異界感も良かったのでファンなら楽しめるかもしれません。



「失くした御守」

というわけで、アンソロジーで読んでイマイチだった第一話。
当時は童貞だったので高一の主人公が普通にセックスしてるのが気に食わなかったのもありますが、それを抜きにしても正直面白がり方が分かりづらいです。
伏線のいくつかはあからさまに何かありそうなもので、伏線かと思っていたものには特に謎解きと関係なかったりして。
まぁ、登場人物全員サイコパスな感じとか、探偵の在り方の新しいパターンとか、(ネタバレ→)探偵役っぽい叔父さんが実は2人とも殺してたんだけど自白という形で"解決"する))麻耶作品のそういう部分のファンでもあるから楽しめるんですけど、ちょっとそれだけでは満足できないですよね。



「転校生と放火魔」

第一話では本書の趣向がなんとなく察せられますが、このお話ではそれがまた違ったパターンで使われていて、ちょっと面白くなってます。やはり第一話は設定紹介の回だったのをアンソロジーでそれだけ読んでしまったから余計イマイチだったのかな......と。
もはや(ネタバレ→)叔父さんが介入しなければ別に謎という謎もないやん!ってとこが麻耶雄嵩らしいです。
事件のパターンについては知識はあったのに気付けず悔しいところですが、これだけ凝った事件を起こした動機をめちゃ雑に片付けるところはいかがなもんかと思います(好き)。
そして転校生の明美ちゃんのキャラがまた絶妙にムカつきますね。なにより両手に花の主人公がムカつく。



「最後の海」

主人公が尊敬する先輩の家庭の事情のお話で、急に人間味を押し出してきた感じがします。
もともと霧に煙る町というロケーションがいいので、こういう将来に靄がかかってるみたいな青春小説をやるにはピッタリでもあり、お話の雰囲気としては本書でも一番好きかもしれません。
しかしトリックはなかなか脱力系。嫌いじゃないけどトホホ......って感じではありつつ、(ネタバレ→)叔父さんが犯人じゃないというミスリードにまんまとやられてある意味驚きました。まぁ、それをやっちゃったらおしまいやんみたいなとこもありますが......。



「旧友」

続いて叔父さんの旧友のお話で、やはり近しい人間の死に打ちひしがれるおじさんに人間ドラマっぽさを感じさせつつ、しかしもちろんこれまでの話と同じように倫理観がとち狂ってもいてそこのギャップがいい意味でめちゃくちゃ気持ち悪いです。
甥っ子思いの叔父さんの優しさが、旧友を失ったことでより強く現れる解決編は泣けますし(?)、トリックにロジックに反転と、オーソドックスなミステリらしさを最も味わえるのはこの話な気がします。


「あかずの扉」

麻耶作品に地味によく出てくる気がする温泉回。
男同士、裸で腹を割って語り合うあたりのエモいシーンを麻耶雄嵩がやるとなんかちょっと違和感あって笑っちゃいますね。
さっきまで入ってた温泉に突如死体が湧いて出るという謎も魅力的だし、警察が落とし所として片付けるダミー解決もそれなりに面白いです。
そして、このトリックはほんと好きかも。ある種トリックという概念をおちょくってるんじゃないかと思うくらい、あまりにアホくさくて、声出して笑っちゃいました。



「藁をも掴む」

女子生徒同士が抱き合って墜死するという謎がまず魅力的で、彼女らの関係がわかることでさらに謎が深まるのも良いですね。
その解決も意表をつくものであり、趣向の絡め方も面白いと思います。
ただ、これまで散々モテる主人公の両手に花のムカつく描写を読まされてきた割にその辺の青春小説としての落とし前がつかないところはかなり不満。
かと言って、正直続編が出たとしてもそんなに惹かれないし、この趣向でこれ以上やるのもしんどそうな気がしますが、どうなんでしょう。