偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

歌野晶午『首切り島の一夜』感想

歌野晶午10年ぶりの書き下ろし長編。
といっても書き下ろしじゃないものはコンスタントに出てるので待望ってほどではないですが、しかしこの珍しく新本格ミステリど真ん中みたいなタイトルはさすがに気になって単行本で買ってしまいました。


同窓会で企画された、40年前の修学旅行の再現ツアーに参加した元生徒たちと元教師。
星見島と呼ばれる島の旅館での宴席で、久我陽一郎は高校時代に先生たちが殺される小説を書こうとしていたことを告白する。しかしその夜、久我は首を切られて殺害され......。


いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜なんなんすかね、これは。
オーソドックスな本格ミステリなんて珍しいと思ってたらもちろんそんなはずもなく(歌野だし)、歌野晶午の中で言ったら『セカオワ(アルハジ)』『女王様と私』みたいな問題作路線の作品......しかも、それらの作品でも著者がやりたいことは分かったのに対し、本作はマジで何が起きたのか、何が目的なのか(歌野の)、私はこれを読んでどうすればいいのかが一切分かりませんでした。
明らかに回収されていない伏線や謎が山ほどあるし、やたら意味深だし、ラストで一応真相らしきものが明かされるらしき状況にはなるんだけど、それが本当に真相なのかというのも胡乱な感じ。
歌野晶午に「ねえ、私の言いたいこと、わかる?」って問い詰められているようで「あぁ、うん、まぁな、もにゃもにゃ......」と誤魔化すしかない状況に陥っています。
恥ずかしながら、一言で言えば「マジでなんも分からんかった!!」というやつ。
いや、そもそも作中でも解決のないミステリについて言及されているし、本作も意味深なだけで意味のないお話なのではないか?とすら思うけど、それにしてもアレに意味がないはずはないし......とか、恋煩いのようにうじうじ悶々と考え込まされて非常に悔しい。答えがあるのかないのか分からないのがもどかしく、歌野晶午あるいは帯に意味深なこと書いていやがる法月の野郎を問い詰めたい。答えはあるの??

(※その後フォロワーと話してこれは特になんもないんじゃないかという結論に達しました)

まぁ、とはいえ、一人一人が語るドラマはそれぞれめちゃくちゃ読み応えがあり、ミステリとしては分からなすぎるけど単に小説としてとても面白かったのでそれだけでも良かったですけどね。特に三上友花は最高。

以下少しだけネタバレで書いときます。

























































































江藤=大島のトリックは気付かなくてすっかり騙されたものの、あえてだと思うけど完全なる意味なし叙述トリックなので別に面白くはない。
この江藤と大島の描き分けを含めて2度読みすると色んな伏線(現在パートで意味深なことを言ってたのが過去パートに繋がるとか)が仕込まれていて、2度読みして細かい伏線拾いを楽しめることは確か。

ただ、モヤモヤする部分が色々あって深読みしたくなるけどたぶん特になんもなさそうですよね。
例えば、野尻のバッグに血まみれのタオルが入っていた件は、回収されてはいないけど宿の主人ならいつでも隙を見て入れておくことは出来そう。
栗原のパートの朝日桐子(森田先生の彼女)の手紙の依頼の真意も後から何か繋がってくるのかと思ったけど、一応栗原の妄想という形で説明はつけられているので、そのまんまそういうことだったと思えば解決はしてます。面白くないけど。
まぁ、作中で『ゾディアック』の話なんかも出てるから、そのまんまそういうことなんだろうね。

そして、カバー裏の裏表紙にも文章が書いてあることに初読時気付かず、再読の途中で見つけたので思わず「うわ、こんなところに答えが!!!」と思ったらこれも特に答えとかじゃなくておこ😡。
一応、裏表紙の作中作のエンディング部分の内容が

・鳥飼雄吾(=久我陽一郎のアナグラム)が死んでいる
・先生が生きている(久我の構想では先生は皆殺し)

というものなので、これは久我が描いたものではなく、久我が殺される事件の後で誰かが弔い合戦的に描いたものだと想像されます。
そうなると、作中で和田先生が江藤に向かって「小説はいつ書くのか?」みたいなことを言っていたので、江藤がそれに触発されて描いた......と考えるのが自然な気がします。

という感じで、小説としては抜群に面白いんだけど、いかにもガチガチの本格ミステリっぽくしておいてからにアンチミステリってのは(それが狙いだろうけど)正直期待はずれ。
歌野晶午の『(ネタバレ→) ずっとあなたが〜』なんかが関係なさそうな話が繋がる傑作だったので、本作も最後にそういう怒涛の伏線回収とかがあんのかと思っちゃってました。
だって帯に「二度読み三度読み必至」とか書いてあるから。あと帯の裏面のあらすじに「7人」って書いてあるのも嘘だし、帯作った奴を殴りたい。ミステリなめんな。