偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アナザーラウンド(2020)


授業が分かりづらいと保護者からクレームをもらい、家では妻子との間に壁を感じる冴えない高校教師のマーティン。
仲の良い3人の同僚に弱音を吐いたことがきっかけで、彼らと「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つとパフォーマンスが良くなり人生上手くいく」という仮説の検証実験をすることになり......。


ジャケ写の雰囲気から『ハングオーバー!』をちょっと上品にしたくらいのコメディかと思ったらそもそもコメディではなかった......しかしとても良かったです!

名前は知ってるけど観たことあんまなかったマッツ・ミケルセンが渋カッコいいんだけど冴えない中年教師の役を淡々と熱演。
同僚たちや家族、生徒のキャラクターもみんな生々しくそこに生きている感じがあったので、静かな作品ですがぐいぐい引き込まれてしまいました。
特に序盤の仕事でも家庭でも軽んじられて友達に泣き言を漏らすあたりの静かな苦しさはかなりグッときてしまいました。

ストーリーの温度感もちょうど良い感じで。「アルコールの力で人生逆転!」みたいな楽観ではなく、でもダウナーすぎず。
酒の失敗もあり、でも酒の力で分かったこともあり、いずれにせよそれはきっかけにすぎず、結局は自分と向き合うことになる......というのが良いんすよね。

実験の内容に関しては、私はそもそもほぼ下戸で頑張って飲んでもほろよい2本程度、しかも飲んでも寒くなるだけでパフォーマンスも上がらないし楽しくもないので、酒呑みあるあるみたいな感じの共感的な見方は出来ませんでした。
その分、ちょっと引いた視点から「おいおい、大丈夫かよ?」とハラハラしながら観れました。
なんせ、酒飲みながら仕事してるってバレないかという外的なハラハラと、だんだんエスカレートしてアルコール濃度を上げようとか言い出すけど自制出来るのか?という内的なハラハラが両立しててかなりサスペンスでしたからね。

そして、祝祭のようなラストシーンは忘れ難い余韻を残します。
良いだけの話じゃない、というかトータル辛いことの方が多いくらいだけど、あのラストのおかげで観た後頑張ろうと思える優しい作品でした。