偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

「たま」はすごいんだぞ!

「たま」というバンドが好きだ。かなり好きです。
データベース型オタクなのでどうしても「覚えてない曲も多いのに大好きって言いづらい」という遠慮が出てしまうのですが、それを抜きにすればもう大好きと言ってもいいでしょう。ってくらい好きです。

しかし世間では、たまといえばおかっぱの座敷童子みたいな男が漫画みたいな甲高い変な声で歌っててランニングシャツ山下清が奇声を上げてる「さよなら人類」だけの奇を衒った一発屋バンドだと思われています。
というかもはや「さよなら人類」すら知らない人も結構いると思う。

でも違うんだよ!
ほんとは熱狂的なブームの後も2003年の解散までずっと活動していたし、アルバムも12枚くらい出してます!全然一発屋じゃないんですよ!
奇を衒ったというのも、そういう面もあるけど曲も歌詞もそれだけじゃない深みや普遍的な良さがあって、ふざけてるだけみたいに言われるのは心外なんです。
あと、日本を代表するロックバンド・スピッツの天才フロントマン草野マサムネ先生もたまのファンクラブに入ってたくらいのファンだし、たしかに影響は感じます特に初期スピッツ


というわけで、私はこうやって時々たまへの愛が抑えきれなくなってしまうので、今日はたまの魅力をざっくり紹介していこうと思います。
自分がちゃんと聴き直すという意味でもそのうちアルバム感想とかも書きたいけどね。スピッツがまだ全然終わらないのでそんな暇はないのだ......。





さて、たまの凄さといえばやっぱりメンバー全員が曲を作って歌っているところでしょう。

たまは「日本のビートルズと称されることもあります。
キャッチーで親しみやすくも実験性や芸術性も高い楽曲、そして上記のメンバー全員が曲を書いて自分の書いた曲を自分で歌うスタイルからもそう言われるようです。
しかし、ビートルズの曲ってゆうてもだいたいレノンマッカートニーで、ジョージは20曲くらい、リンゴは3曲くらいしか書いてないっすよね(歌ってるのはもうちょいあるけど)。
その点たまは、各アルバムに全員の曲がほぼ均等に入っているので、ビートルズよりも偉大なのです!
しかも、全員がそれぞれ強烈な個性を放ちつつ、それが分離することなく「たま」というバンドの個性の枠に収まっているのも凄いところ。

というわけでここでメンバーとそれぞれの曲の特徴をざっくり紹介します。フルネームとかは私も暗記してないので自分で調べてね。





知久さん

担当楽器:ギター、マンドリンウクレレなど

たまといえば最初にイメージされる声とビジュアルはこの人だと思います。最近だと「ごてあらポー」とか「ヒガシマルうどんうどんうどんスープ」みたいなCMソングでもその親しみやすい歌声を発揮しておられます。
曲も「たまらしさ」の軸を担っていると思います。
クセがありつつキャッチー。シュールでナンセンス、それでいて儚くノスタルジックで詩情もある。

知久さんで推しの曲↓

①おるがん
「僕が死んだ日」から始まる歌詞は、あまりにも哀しく、しかし優しく、聴くたびに泣きそうになります。

②あたまのふくれたこどもたち
新興宗教への批判だという歌詞は、独特のワードセンスはそのままに、たまには珍しい怒りを感じさせるもので、その不穏さにかなり怖くなってしまいます。構成もプログレ感もあって良い。

③安心
「僕の未来は火葬場の灰」から始まる歌詞がやっぱり優しくて死への不安をそっと和らげてくれます。物悲しくも美しい歌。



柳原さん

担当楽器:ピアノ系、アコーディオンなど

バンド最大のヒット曲「さよなら人類」はこの人の曲。
ポップさとキャッチーさはたまでも随一。知久さんがジョンなら柳原さんがポールみたいなイメージっすね。
楽しい歌にしろ物悲しい歌にしろ、不穏さやダークさが薄くて良くも悪くも一番聴きやすいです。

柳原さんで推しの曲↓

①オゾンのダンス

個人的にたまで一番楽しい歌。
たったかしたリズムと合いの手の多さでただただ楽しい。
そして歌詞が思いっきり下ネタなんですよね。最後の歌詞、「マンホール」のバージョンと「まんじゅしゃが」のバージョンとあって、個人的には後者のが好きです。

②満月小唄

8分近くある大作。
弾き語りのように物静かにはじまり、サビではコーラスが入り、パーカッションが入りと盛り上がり、「お祭りの終わる夜」という歌詞の通りにだんだんと儚さと熱量を増していきながら展開するので約8分まったく飽きさせないのがすごいです。

③寒い星

もっと楽しい曲もあるのにどうしてもこういう辛気臭い曲が好きなんです。
これも寒くて白いこの星の夜にひとり取り残されたような寂寥感があって何度でも聴いてしまいます。



石川さん

担当楽器:パーカッションなど

通称「たまのランニング」。
ランニングシャツに坊主頭という山下清ルックで見た目にも異彩を放っています。
そして「さよなら人類」の「ついたー!!」をはじめとする合いの手や、曲の間奏の語り、ライブで飛び跳ねたりしながら太鼓を叩いたりする奇抜なパフォーマンスなど、全体にヤバい人が多そうなたまの中でも特にヤバそうな人。
曲はコミックソングに近いナンセンスギャグっぽいものが多いですが、その中にもメッセージ性の強いものもあったり、たまに実験的で狂気的な曲もあったりとやはり奇抜。
しかし最近Twitterを見てめちゃくちゃ賢い人なんだと分かってからより好きになりました。

石川さんで推しの曲↓

①学校に間に合わない

愉快で楽しげでテンション高めにはじまって、サビでは奇声を上げて叫び楽しげを超えてかなり怖くなっちゃう曲。おじさんが子供みたいな裏声のシャウトで「目的の遂行ー!!!」とか言ってるのはかなり怖いぞ。
しかし歌詞は学歴社会とそこからこぼれ落ちてしまった自分を「学校に間に合わない悪夢」を通して描くメッセージ性の強いもので、間奏ではシュールな語りも入ってて石川さんらしさの全部詰まった曲。これを聴いてくれれば大体わかる。

カニバル

と言いつつ、こういう面も出してくるから凄いよなぁ、と思わされる、7分超の狂気的な大作。
各パートが合わせるとか考えずに勝手に演奏してるみたいな中をつんのめるような語りのような歌い方をしてたかと思えばサビで急に太い声で荘厳な感じになるのがめちゃくちゃ怖い。なんか、ビートルズのレボリューション9に歌を付けたみたいな気持ち悪さのあるカッコ良すぎる曲っす。

健さん

これは後期の曲で、チープな音で繰り広げられる人力テクノというヘンテコさだけでもクセになっちまいますが、歌詞も凄い。
鳶職のおっさんの健さんが妊娠するというナンセンスすぎるお話なんだけど、実は男女の格差をミラーリングのような形で描いた早すぎた男性によるフェミニズムソングなんですよね。



滝本さん

担当楽器:ベース

はい、推しです。
声もビジュアルも奇抜な他の3人の中にいて、1人渋い見た目と声で色気を放っている、ある意味一番の異色キャラ。
しかし一見まともそうに見えて、歌詞を読んでると実は一番狂気染みているところがカッコいいんですよね。オタクが好きなキャラだ......。メロディもちょっと不協和音っぽい気持ち悪さがあって素敵なんですよね。
あと、メンバー募集してたたまに自ら応募して加入した時のエピソードがWikipediaに載ってたんだけど、それがめちゃ好きなので引用しておきます。

なお、滝本にはそれまでベースの演奏経験がなかったが、「既にたまは完成されているバンドだった。誰かが入ってこのバランスが崩れるくらいなら、自分が入ろうと思った」という理由で応募した

ヤバい。エモい。エロい。萌える。推せる。

滝本さんで推しの曲↓

①星を食べる

最高。
「ぼくは君の首をそっとしめたくなる」という歌詞にゾワッとさせられる、鬱屈した自意識が破滅を求めているような非モテ系ラブソング。すこ。

②夏の前日

眠くなるようなかったるいくらいの歌と演奏が、しかしどこか不穏さを孕んで少しずつ進んでいき、サビに至って炸裂する。おあずけされて待たされた果てのカタルシスがある曲。こういうのサブスクでは飛ばされちゃうのかしら。でもサブスクにあるから聴いてほしい。
光、空、海、雪、風、砂、水、夏......赤い夜......。カラフルでモノトーンの白昼夢のような、懐かしく不穏な歌詞の世界がやっぱり良くって浸っちゃう。

③日曜日に雨

こっちは逆に激しめのイントロとヴァースのちょっと声を張り上げて歌ってるところから、サビでちょっと抑えるところにぞわぞわする曲ですね。
「日曜日に雨 ほんとにそれだけ」という歌詞に現れるあまりの空虚さに聴くたびに胸が苦しくなってしまいつつめちゃくちゃ聴いてしまう。

④サーカスの日

昭和レトロとかモノクロのパリとかを思わせる懐かしいオシャレサウンドで、どこか呆然としたまま言葉だけが口から漏れてしまうような歌い出しが素晴らしく、そこからグッと切なさが盛り上がるサビに泣きそうになります。広い世界にひとりの自分があまりにも小さくて軽くて恐ろしくなってしまうような、穏やかに怖い曲。みょーんって音も好き。

⑤「夏です」と1回言った

「たま」としてのオリジナルアルバムとしては実質最後になる『東京フルーツ』に収録された曲で、そういう意識があるからか、どこか集大成のように感じてしまう曲です。
サビでは裏声を使ったエモい歌唱をしていて、やはり懐かしくも不穏な歌詞の鋭さを際立たせています。滝本さんの曲は夏に聴きたくなるのが多いけど、これは特に、クーラーの効いた部屋で一人で聴くと虚しさで死にそうになります。





というわけでメンバーと推し曲紹介終わり。

はぁ......ほんとはもうちょい書きたかったけど既にかなり長くなってしまったので今回はこの辺にしとこうかな。
今回はも何も、リアタイで追ってなくてライブもDVDで少し見た程度の私にはこれ以上何も書けない......。あとはアルバム感想くらいかしら......。

そうそう、たまはあんまりサブスク解禁されてないんだけど、私の入ってるApple Musicでは、ベスト盤「まちあわせ」と、4作めのアルバム「犬の約束」、5作めの「ろけっと」の3枚が聴けるので気になった方は聴いてみてください......。

‎たまをApple Musicで

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