偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田正紀『囮捜査官 北見志穂2 首都高バラバラ死体』感想

シリーズ第2弾。


首都高のとあるPAに居眠りトラックが突っ込む大事故が発生。現場に駆けつけた救急車の一台が何者かに乗っ取られて消失。さらに、首都高の各所からバラバラにされた女性の遺体のパーツが発見され......。


前作は堅実な刑事ものという印象でしたが、本作は打って変わってもはやB級ホラーを連想するくらいの奇怪な事件の数々と、完全に頭おかしい犯人を追うサイコスリラー風味とによる濃いめの味付けになっています。

冒頭の殺人シーンを始め、大事故や棄てられた死体の有り様、首都高PAで行われていたアレに、起承転結の転の部分で起こる出来事など、とにかく悪夢のような印象的なシーンがいくつもあってそれだけでかなり記憶にこびりついてしまう怪作になっています。

また、今回は志穂の大学時代の友人が被害者、容疑者として登場し、彼女のプライベートな部分も少し見えてくるのも見どころ。特に友達以上恋愛未満みたいなキモチの行く末は......!?というところとかね。
今回は囮捜査というよりは潜入捜査で、志穂が被害者の勤めていたキャバクラに潜入するんだけど、店での人間模様とかのあれこれも面白かったです。

ミステリとしては前作がわりとストレートなジェットコースターだったのに対して、スピード感はそのままに、色んなものが飛び出してくるお化け屋敷みたいな面白さも加わって、お化け屋敷の中を疾走するジェットコースターみたいなお話になってます!喩えが下手でごめんなさい🙏🙇‍♀️
ただ、強いて難を挙げるならば色々詰め込みすぎていて一つ一つのネタがやや弱いように感じます。例えば幽霊救急車の件も分かってみれば「なんだ、そんなこと」というものではありますし(そこに必然性を付けて納得させてるのはもちろん上手い)、メインどころのとある仕掛けは思った以上に首都高の地理的な状況がキーになってて名古屋あたりの田舎者にはいまいちピンと来なかったりしました(まぁ略図が載ってるのにちゃんと見てないし地名を読み飛ばしてる私が悪いですけど)。
こないだ人生で初めてアフタヌーンティーなるものに行ったんですけど、ちっちゃいスイーツがいっぱい載ってて可愛いし美味しかったけど一つのものをガッツリ食いたいな、っていう、その時の思いに似た気持ちになってしまうのはあります。喩えが下手でごめんなさい🙏🙇‍♀️

メッセージ性の観点から言うと、前作は痴漢や男社会での圧力など女性に降りかかるものについでだったのに対し、今回はキャバクラで働くことなど一見女性が自ら選んだ道に対して、しかしそんな道を選ばなければならないことの理不尽さというようなものを浮き彫りにしています。

女がこんなふうにして生きていかなければならないのを強いているもっと大きななにかに対して、体の底から激しい憤りを覚えていた

という、とある場面での志穂の独白が非常に印象に残りました。



と、そんな感じで、主人公のキャラも掘り下げられ、メッセージ性も深まり、ミステリとしてもさらに豪華絢爛になった傑作です。
次作も楽しみ!