偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

劇場版 優しいスピッツ a secret session in Obihiro


※ネタバレします!!!セトリとか演出とか!!!


WOWOWで放送された、2021年10月に撮影された北海道・帯広の旧双葉幼稚園でのライブ映像作品。
当時わざわざWOWOWに入って家でも見たんですが、映画館の大スクリーン&Dolby Atmosで観られるということで喜び勇んで観に行きました。結果、めちゃくちゃ最高だったぜ!

ライブ映像って書いたけど、お堂のような狭くて天井の高い建物の中でもちろん無観客でスタッフとメンバーだけがいて、メンバーが円形になって演奏するというシチュエーションで、監督が松居大悟さんだけあって生々しさと映画的な美しさの混ざり合った、ライブともMVとも違う独特のスピッツになってて良かった。
昼頃?くらいからはじめて、一発撮りで夕方になって夜になって......という時間の流れを窓の外の眺めから感じられる構成になっていて、ほぼ一曲ずつの合間にゆる〜いトークも挟まれるのでスピッツと一緒に1日過ごしたような贅沢な気持ちも味わえて本当に良かった......。
ライブ会場じゃないから音がかなり反響して、なんか天然でリバーブかかってるみたいな感じで、特にマサムネの歌声の響きが凄くて、なんかマサムネって生きてるんだな、っていう謎の感動がありました。

そしてなにより、セトリが神。
神とかいうと軽いかもしれんけど、なんつーか、私がどんだけ頑張って「スピッツの理想のセトリ」を捻り出したってこれの足元にも及ばねえ!ってくらい完璧なセトリ。このセトリを考えたスピッツ自身がスピッツの魅力や魔力をめちゃくちゃ自覚してるんだなってことが分かったのも大きな収穫です。
最初の方から中盤にかけてはインディゴ地平線〜フェイクファーあたりっぽいスウィートな儚さを纏った曲がオールキャリアの中から選ばれていて、それが最新曲「大好物」あたりをきっかけにもう少し力強い曲に変わっていって最後は「運命の人」の多幸感で締まるという最強の流れ。一つだけ欲を言えば15曲しかやらないので、あと200曲くらいはやってほしかったかな。

また、劇場版では撮影からしばらく経った2023年になってからの松居監督によるメンバーへのインタビューがオマケとして入っててそれも嬉しかった。映像作品としてはせっかくキリッと締めた後で蛇足のようにも感じますが、スピッツファンは生きて動いて喋ってるマサムネとリーダーとテツヤと崎ちゃんを見られるだけでもうありがたき幸せでやんすよ。
そのインタビューパートでも言ってたけど、ニューアルバム『ひみつスタジオ』がリリースされた後で観るとこの映像も秘密のスタジオでガチャガチャと実験しているところを覗き見するような感覚があって良い。普段のライブ映像では勢いでじっくり見られない演奏中の手元とかもわりと見れて、まぁ楽器やったことないから何やってんのかよく分からんけどやっぱ演奏してるとこカッコいい。


一曲目が「つぐみ」ってとこからしてもう意外性と「優しいスピッツ」ってそういうことかーという納得が凄い。この曲は人生でも特に一番スピッツにハマってた高校時代に出たシングルで、最近聴いてなかったけど思い入れはやっぱあるので初っ端から泣きそうになりました。

「冷たい頬」
単純に大好きな曲だし、スピッツの儚くて美しい曲代表だし、秋っぽい雰囲気が北海道にも合ってて2曲目で本作の雰囲気を作り上げてる気がします。あとめちゃくちゃ恥ずかしながらですが、間奏ギターソロだと思ってたらベースソロだったのでファン名乗るのやめます。にわかです。

「ハヤテ」
レアすぎる。中学の時はなんか地味な曲だな〜で流してたけど大人になってどんどん好きになった曲なのでライブ版を観られて嬉しすぎる!

「今」
ここまで穏やかな曲ばかりだったところに、雰囲気を壊さない程度にノリノリな曲で楽しい!
あと、この曲のコーラス好きなのでコーラス歌ってるリーダーが見れて満足。

「Holiday」
同じくハヤブサからノリが良くも切ないこれを持ってくるセンスがやばい。私も中学時代は好きな子のストーカーやってたんで、これ聴いて頑張ってました。

空も飛べるはず
これは普段そんな好きじゃないんだけど、このセトリの中で聞くとめちゃ良かった。「久々にやる曲」「いつも影武者がやってるから」の流れには笑いました。

「漣」
前半のクライマックス的な感じ。クージーが笛吹きながらコーラスしながらピアノ弾いてて魔法使いみたいでした。そして、この曲のベースこんなかっこよかったんだと気付く。リーダー、こんな狭い場所でもこんな暴れるんだやっぱ。笑

そして、この場所でやることを熱望していたという「優しいあの子」はやはり感慨深い。
演出なのかなんなのか、この曲あたりから映画館が急に冷房をガンガンに効かせてきたので観客も北海道に行った気持ちで楽しめました!草刈正雄さんが来なかったのは残念です。

「夕焼け」
ちょうど夕暮れで外が少し薄暗くなってくる時間帯にこの曲やるってのが最高。
澄んだ曲が多いセトリの中でもこれは特に澄み切ったストレートなラブソングで、しかし強烈な切なさもあって......セトリの中で唯一のバラードなので全体を引き締めてもいて素晴らしい。そして、ライブで聴くとやっぱりギターソロがよりカッコいい。なんでこんなしっとりした曲であんなハードなギターソロ入れるんだ。最高。

雪風
これも北海道繋がり。なんか大学の時にバイトの帰り道でダウンロードして初めて聴いた記憶がすごいある。その時は地味に感じだけど、アルバム『醒めない』での曲順が最高だったので一気に好きになった曲。最後のコーラスの部分がライブでしかもこの歌声の響く場所だとめちゃ良くて、あっさり終わるところも好き。
なんかちょっとCDと違うぞ?と思ったら半音上げてるそう。下げるのはよく聴くけど上げるなんて元気だな。

「大好物」
そういえば2017年以降スピッツのライブに行ってないのでこれを爆音でライブ演奏で聴くのも初めてだったけどやっぱ良い曲。
曲自体はお昼の12時くらいのイメージで聴いてたけど夜の始まりくらいにやるのも新鮮な感じでいい。

「未来コオロギ」
ここで画角が1:1になるグザヴィエ・ドランのMommyみたいな演出で、ここまでの「優しい」曲たちより少しシリアスな雰囲気を急に画角が変わることのある種の不穏さが高めている気がします。
最後のサビで抑えながらもどんどん激しくなっていく演奏には、未来への祈りと共に良い未来が見えない現状への怒りのようなものも感じました。

「ガーベラ」
そんな中でこのファンにとっては強すぎる選曲な......。
音源で聴いてた時はわりと雰囲気で暗い曲というイメージでしたが、「ハローハローハロー」に合わせて画角が開いていく場面の自閉していたところから世界に繋がっていくような解放感と、その後の間奏のジャカジャーンに合わせた引きで全員映るキメのアングルが、ちょっと狙いすぎな気もしつつしっかり鳥肌たっちゃいました。

「名前をつけてやる」
ガーベラがクライマックスで、これはなんかちょっとボーナストラック的な感じがします。ここまで1番古くて「空飛べ」だったのが唯一この曲だけ初期の曲ですから、ファンサ的な選曲に感じます。
ここまで崎ちゃんやリーダーのコーラスはあったけどこれはテツヤがコーラス歌ってて、これにてメンバー全員の歌ってる姿が見れたのでこれも「オバロック」への伏線だったのかと。

「運命の人」
「最後の曲です」って言ってくれないと分かんないよ!という感じで、この曲終わって「ありがとうございましたスピッツでした」って言った時の「終わっちゃうの〜!?」感はつらかったですが、まぁこれやったら終わりだろうという予感はあったので......。
窓の外から強い照明が当たってることで、なんか夜が明けて朝が来たような演出になっていて、そんな中で踊れるリズムで歌詞はともかく曲調にはとても多幸感のあるこの曲で締めてくれるのは最高ではあります。
ただ、欲を言えばあと200曲はやってほしかった......。