偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

後藤正文『INU COMMUNICATION』感想

アジカンのゴッチによる「ぴあ」アプリでの連載を書籍化した1冊。

俺が犬を信じられなくなったのは、
21世紀が始まって
数年が過ぎたころだった


とある出来事がきっかけで犬への不信感を抱くようになってしまったゴッチが、それを克服するために色んな人の飼い犬と触れ合って犬と仲良くなろうとする愛と青春の書です。

ゴッチの気の抜けたゆるい文章で描く犬との交流がとにかく可愛くて、犬も可愛いしゴッチも可愛いです。
だから犬もゴッチもどっちも嫌いな人には薦められないけど、どっちか好きなら結構楽しく読めるんじゃないかと思います。

私自身は実は犬が苦手で、その理由はというと幼稚園に行くまでの道に怖い犬がいる家があって毎日吠えられてたからとかなんですよね。それ以来、デカい犬は人殺しに見えるし、小さい犬も人間に媚びてるけど本当は虎視眈々と主人の座を狙っているに決まってる!とイッヌへのヘイトに凝り固まった日々を過ごしてきました。
しかし、本書を読んで犬って意外と可愛いやつなのかもな......なんて思うようになってしまいました。なんせゴッチ自身も犬が苦手な立場から書いてくれるので、犬好きの人たちから放たれるあの押し付けがましいポジティブパワーが一切なくて素直に犬のことを見つめ直すことができました🐶
本書には色んな犬種の犬が出てきて、当たり前ですけど、犬種によって、また個人個人(個犬個犬)によっても個性があるというのを改めて認識できました。

また、ゴッチについても、長年アジカンのファンではありつつその人となりはそんなによく知らなかったので、「こんな面白い人だったんだ」と認識を改めました。
とにかく毎回「嫌だな〜」というところから始まり、嫌すぎて色々と悪い想像、いや妄想をするのが笑えます。毎回最後までそんなに犬と仲良くなれないまま終わるのも面白いし、それでいて犬を巡る社会問題などへの言及や犬嫌いの偏見を正すようなとこほもちゃんとあり、犬と飼い主への誠実さはしっかり持っていってるところが好き。

あと、本書は写真もいっぱい載っててめちゃくちゃ可愛いんですけど(犬もゴッチも)、その写真を撮ってるのが(一部除き)写真家のかくたみほさん。スピッツのアルバム『とげまる』およびその時期のシングルのジャケ写も撮ってた方で、そのスピッツのジャケ写がめちゃくちゃ好きなんですよね。わざとらしい加工っぽさはないんだけど、実際の風景をほんの少しだけ可愛く暖かく優しく見せてくれるような写真で、うん、すごく可愛かったです。


という感じで、私は本書を読んで犬って可愛いのかもな、と思ったし、ゴッチって意外と面白い人なんだ、とも思いました。
さっきは「犬もゴッチも好きなら楽しめる」とか書いたけど、どっちにも興味なくても楽しめる1冊かも!と前言撤回しておきます。