偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

メメント(2000)


妻を殺され、自身も犯人に殴られて記憶が10分ほどしか保たなくなった男レナード。自らの肉体への刺青と大量のメモを駆使して復讐のために犯人を探すが......。


オッペンハイマー』やる記念で、ノーラン作品でも特に好きな(というか確かこれで初めて観たので思い入れの強い)本作を見返しました。
3回目なんですけど、私も映画見た記憶が10分しか保たないのでやっぱり忘れてる部分が多くて新鮮に楽しめてしまい、楽しめたから良かったけど自分の記憶のガバさに失望しました笑。


本作の魅力といえばやっぱ特異な構成と意外な結末ではあると思うし、初めて見た時はその辺の衝撃で「映画ってこんなこともできるんだ!」と、初めて『十角館の殺人』を読んだ時の感動の映画verみたいな気持ちになってそこからこういう映画を探して観まくった思い出があります。
結末から始まって起点へと遡っていく逆順の時系列と、ところどころで挿入されるモノクロのシークエンスというトリッキーな(でも近作に比べたら逆順なだけでシンプルではある)構成が楽しく、最後まで観るとこの構成だからこその意外なラストが用意されてもいて、分かりやすいんだけど知的な雰囲気()はあるのが私みたいなアホのミステリファンにはちょうどいいんですよね〜。
各シークエンスごとに「どうしてこうなった??」というヒキがあって、その原因が次のシークエンスで解明されつつまた別の「どうして」が浮かび上がってくるあたりも飽きさせない見事な脚本。

そして、他のノーラン作品や直近のダンケルクオッペンハイマーあたりまで観た上で改めて見返してみると、時間を操る作風もそうなんだけど、主人公が過去を持たず立脚する場所のないゴーストのような存在であることも他のノーラン作品と共通していて、本作の時点でそういう色んな作家性みたいなものが確立していたんだと思い知らされます。
例えばバットマンは両親を亡くしてヒーローでありつつ犯罪者でもあるという孤独な存在だし、インセプションの主人公も消えた妻の影を追う孤独な男で、ダンケルクは名もなき兵士だし、テネットも一度死んだことになってる男、オッペンハイマーは実在の人物なのでちょっと違うけどそんでも家庭はあってないようなもので来歴とかもあえて描かれていなかったのでやはり過去とか自分の寄って立つところが曖昧な存在なんですよね。
そういう各作品の主人公の寄る辺なさみたいなものが、その作品内での目的を遂行するため"だけ"に彼らが存在しているような強烈な空虚さを出していて、そのある種空っぽな人間のドラマを複雑な入れ物に入れてお届けするところがノーラン作品の魅力であり嫌いな人が嫌うゆえんなのかな、、、なんてことを改めて考えました。

あと、ノーラン作品はフォロウイング、メメントプレステージがミステリ、バットマンシリーズ、インセプションインターステラーがSF、ダンケルク、テネット、オッペンハイマーが戦争モノと、ざっくり3作品くらいごとにジャンルが変遷していってるなぁってのも思った(まぁプレステージはSFかもしれんけど、私の中ではノーラン作品でも最高のミステリなのです)。
というジンクスが正しければ次はどんな作品を出して来るんだろう......と楽しみです。

という感じでメメントの感想からはだいぶ逸れてしまった気はするけど、ノーランの原点みたいなものが味わえる傑作でありますことよ。オッペンハイマー公開を機にぜひ皆様観てみてくださいな。

1行だけネタバレで↓





























































































































「妻の復讐」を目的としながら最終的にその目的自体が架空のものだったと分かる残酷なラストが、前述のノーラン作品に通底するある種の空虚さの最も分かりやすい一例な気がして憎めない。