偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

中島らも『白いメリーさん』感想

『人体模型の夜』を読んだことがあり、面白かったから他のも読みたいと思いつつも読めてなかった中島らも。例によってトクマの特選で出てたので読みました!

題して『中島らも曼荼羅コレクション』!
曼荼羅ってのがどういうことなのかはよく分かんないですけど、色んな読み味のお話が入っていつつ、全て一貫して中島らも作品だっていう強烈な個性を感じてめちゃくちゃ楽しかったです!





「日の出通り商店街いきいきデー」

世にも奇妙な物語』で観たことあるんですが、マジで奇妙っつーか意味分かんねえお話でした。もちろんいい意味で!
「日の出通り商店街を歩いていると天ぷら屋が襲ってきた。しかも真上からである」という書き出しからもうハートをギュッと掴まれてしまいます。
いつもは仲のいい商店街の人々が一年でその日だけは殺し合う。奇抜でエグい設定と、それぞれの商売道具を使ったバトルの滑稽さのとのギャップに変な笑い方をしてしまいます。そして、こんな馬鹿馬鹿しいような話の中に人生の意味を問う哀愁みがあることでただの馬鹿話に終わらないエモさがあります。
急に落語みたいなオチも綺麗。

関係ないけど、私の好きなお笑いコンビのシソンヌに「野祭」という話があるんですがそれを思い出しました。もしかしたら影響受けてるのかなぁ。





「クロウリング・キング・スネイク」

なんなんだこりゃ。
家で拾った一枚のウロコから始まり、民俗伝奇怪奇幻想みたいな雰囲気を醸し出しそうになる辺りまでは分かるんだけど、そっからの超展開にはただただ唖然。展開自体がネタバレになりそうなので何も書けないけど、なんでそうなるの!?っていう発想の飛距離への驚きがそのまま爆笑に繋がります。
それでいて、境遇に縛られずに自由に生きていくという力強いメッセージ性で腹筋のみならず涙腺まで攻めてくる二刀流。インパクト強すぎます。怪怪怪作。





「白髪急行」

一転、静謐で幻想的な掌編。
冒頭の誰もいない回想電車などへの憧憬がとても分かります。たしかに存在するはずなのに絶対に見ることの出来ない光景(自分がそこにいたらその時点で無人の空間ではなくなるので)という想像力でしか触れることのできない空間。
そして、落とし所は読めてしまうものの、恐ろしさと懐かしさと、安心のようなものさえも感じさせる複雑な味わいの結末もとても良きでした。





「夜走る人」

これが1番好きかも。
タイトルの通り、夜に走ってる人のお話なんだけど、まず夜のあの空気感が凄く良いです。コンビニ、なぜか明かりのついている金物屋、ホームレスが暮らす車......。観ているだけなら綺麗な夜の景色の向こうにあるそれぞれの秘密、営み......。
そして踏みつけられる弱者の怒りに寄り添いすぎた捻りとカタルシスが最高すぎますでしょ。
淡々とした筆致と奇妙なキャラクターたちとエピソードがつながっていく構成と弱者の怒りと......っていうあたりが全部伊坂幸太郎っぽいから好きなのかも知れないと、感想を書いていて気付きました。これ伊坂の私が好きなところの凝縮みたいなもんだわ。





「脳の王国」

解説でオーケンも書いてますが、これはシリーズ化してほしい!
人の心を読む能力を隠して魚屋をやってる主役のおじさんがもうめちゃ良い。カッコいい。能力を手に入れるまでのエピソードがこの話だけで使い捨てるには勿体無いくらい良さがあるし、依頼を受けることを決める場面とかも良いし、依頼内容自体もまた良い。
全ての感覚がない少年の住む世界とはどんなものなのか......。その描写が凄く良いし、最後の一文も良い。良いしか言えないけどめちゃくちゃ良かったです。




「掌」

ここまで何話か読んだ中でも男から見た女性の強さ、解説にあるように「畏怖」の念に近いものを描いている作家という印象ですが、逆に男のダメさ加減もエグい。でも分かる。
怪談でもありつつ、怪異すらも女の怖さを見せるための小道具に過ぎないところが斬新な気がします。





「微笑と唇のように結ばれて」

これも女という存在の不可思議さや神秘さと恐ろしさについて。
衒学みや耽美みがありつつ、ゴテゴテしすぎない上品さと滑稽みもあるあたりがらしい感じがします。
しかし男の妄想を具現化したような彼女にはどうしても惹きつけられてしまいますよね。一気にお惚気ギャグみたいになるラスト1行がまた変な余韻を残します。





白いメリーさん

都市伝説を追いかけつつ男手一つで娘を育てるライターのトホホな日々が愛おしくて応援したくなっちゃいます!
都市伝説に関する調査の内容もまたトホホな感じですが、そこから一気に展開するラストが凄い。起承転結の転で終わる感じ。説明はないけど怒りや悲しみの情念を強く感じさせて印象的です。





「ラブ・イン・エレベーター」

奇妙な味の掌編。
恋愛や結婚のシニカルなメタファーとして読めるお話で、その虚無的な見方がとても怖いです。
ミスチルの「未来」の2番の歌詞を尖らせた感じ。





「頭にゅるにゅる」

今回の徳間文庫からの復刊にあたってボーナストラックとして収録された短編ですが、ここまでの作品と違い私小説的というか私怨を吐き出してるだけというか、あまりにそのまんまでめちゃくちゃ笑いました。
要は、「直木賞落とされた渡辺淳一死ね」という話。申し訳程度の仮名を使いつつ"渡部"氏の文学観を全否定し挙句の果てにはアレをアレするという、怒りが内容に直結したような作品です。
渡辺淳一の作品を読んだことがないのでなんとも言えませんけど、権威的なものに噛み付く中島らもの姿勢はめちゃくちゃ好きですね。それも、直木賞は欲しいけど権威はいけすかないというアンビバレントな感じが人間味があっていいと思います。
浦賀和宏でもそうだけど、作家が何かに私怨をぶつけるような文章は読んでて気持ちいいので好きなんですよね。