偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

平尾昌宏『ふだんづかいの倫理学』感想

倫理学の先生による、倫理学をしっかり学ぶつもりのない読者のための「今日から使える」倫理学の本です。


とりあえず前書きが面白い。
倫理学の本ってのはやたら難しい用語が出てくる専門的なものか、エッセンスをさっと紹介するだけの入門書しかなかった。しかし本書は、「倫理学をちゃんと学ぶつもりはないけどちょっと気になる」くらいの読者が実生活で倫理的判断が出来るようになる「ふだんづかい」用の倫理学だ、みたいな感じ。ふむふむ、面白そう......と思って読んだが面白かった。

内容は良くも悪くも(?)、大学の人気のある講義みたいな感じ。
たぶん専門家からすれば分かりやすくするために端折ったりしてるとこも多いだろうけど、私みたいなまさに「ちゃんと学ぶつもりのない」読者にはとにかく話が面白くて身を乗り出して聞いちゃう、いや読んじゃうような。
デスノート夜神月の行動は正義か?」みたいに、漫画や小説を例に挙げて砕けた調子で説明してくれるので楽しかったっす。

しかし一冊通して読むと、たしかに普段から意識しておきたい倫理学のベースのようなものが自分の中に作られた気がします。
ネットでは毎日誰かが炎上し、正義vs正義の戦争が起きてその実態はお気持ちvsお気持ちだったりとか、まぁ自分も含めてですけど、自分勝手な正義感が振りかざされすぎている。
かと思えば誰かは「正義は人それぞれ」とか「正義なんてないんや」みたいなことも言い出したりして収集つかんわけですけど。
そんな中で、本書では倫理を「正義」をはじめとするいくつかの分類に腑分けしています。それによって、個別の事案では実際には何が問題になっているのか?その時我々はどうするべきなのか?の判断が出来るようにしてくれるわけですね。
本書を読めば、自分の身勝手な正義感を振り翳したり、正義なんてないと冷笑したりせずに真摯に倫理的な態度を取ろうとすることが出来るようになる......ハズ!

読み終わってちょっとたちょっとだけ生まれ変わったような気持ちになれる素敵な本でした。