偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

加藤元浩『Q.E.D 証明終了』全巻読破計画④ 31巻〜40巻

はい、もうね、久しぶりなんてもんじゃないっすよ!1年ぶり!
例年年末になると忙しくて小説一冊読む気力が湧かなくなるので、映画とかマンガが多くなるんですよね。という事情がなければ読まないのかって感じですけど、読み始めるとやっぱりめちゃくちゃ面白いっすこのシリーズ。


今回読んだ31〜40巻は印象としては安定期。
飛び抜けた傑作は少ないものの、つまらないと思うようなお話もなくって、毎話しっかり楽しめました。
また、ストーリーテリングも円熟の域。ミステリ部分よりも物語性に高得点を付けたお話もいくつかありました。


というわけで、じゃあさっそく各話の感想を......。


(各話採点基準↓)

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い




31巻


「眼の中の悪魔」★★★3

ロキの友人の航空科学者・ルーカスは、画期的な実験成果を発表したが、その実験を再現できないという指摘が相次ぎ、彼は聴聞会にかけられることになる。しかし、聴聞会でデータの提出を求められた彼は「データは指導教授に盗まれた」と証言し......。


山田風太郎から借りてきたタイトルを科学にまつわる別の使い方で使った、Q.E.Dらしいお話です。
正直なところミステリとしてはそこまで。物理的なアレは「分かるかーい!」と思ってしまうし、心理的なアレはやや説得力に欠ける気がします。
しかし、お話としては抜群に面白かったです。悪そうな教授がかなり存在感の大きい人物で、彼の語る話には思わず聞き入ってしまう(って私は読んでるだけで聞いてないけど、でもそう言いたくなるような)説得力があって、特に最後のセリフは非常に印象的でした。科学者の生き方から敷衍して人間の生き方についてをも描き出した見事な物語でした。



「約束」★★★3

とある雪山にある山小屋の主人は、2人の登山者が「駒田利一を殺してくれ」と約束をした直後、その片割れが雪崩に呑まれる事故に出会う。
3年後、その山で男が滑落する事故が起きるが、滑落した男の名は駒田利一だった......。


まずは、登山の相棒(バディ)というモチーフから「殺人の約束」というところまで飛ぶ発想力はエグいです。あまりに魅力的な導入であり謎の提示です。
また、謎解き部分に関しても、若干の物足りなさはありつつもトリックロジック共に盛り込もうという大盤振る舞いなところは流石です。
ただ、トリックは1つは分かりやすすぎ、1つはありきたりすぎ。また、ロジックもあまりに真っ当で意外性に欠ける......などとテキトーな批判をしてしまうのはこのシリーズへの期待がそれだけ大きいことの裏返しかもしれませんが......。
で、一番もにょったのは動機。もちろん、作者の意図は分かるんです。でも、そういう意図にせよあまりに酷い動機ではないですか。この動機の酷さが、さすがに「約束」というテーマの重さとミスマッチな気がするのですがいかがでしょうか......。




32巻


「マジック&マジック」★★★3

マジック道具屋と天才マジシャンの諍いに巻き込まれた燈馬たち。マジシャンは道具屋の金庫から新作のマジック道具を盗み出すという予告状を送りつけ......。


ミステリと相性が良いようでいて、「トリックを明かすのは野暮」というミステリと正反対の美学もあるマジックという題材。これをミステリとしてどう見せるかは非常に難しいところですが、本作はなかなか見事にやってのけてます。
結末の方向性自体は読めてしまうものの、全てを見破るのはなかなか難しい。そして、種を明かしても面白い、というところが粋ですね。
マジシャンの左手が派手な動きをした時、右手はこっそりと何かを仕掛けているのです......。





「レッドファイル」★★★3

銀行員が殺害され、部屋が荒らされていた。
盗まれたらしいファイルを巡って、様々な思惑が入り乱れ......。


金融とか経済とかに関してまるっきりぽんぽこぴーな私でも分かりやすい燈馬くんの講義はさすがで、この作者は学校の先生にも向いてそうな気しかしないっす。てか学生時代にこんな授業の分かりやすい先生がいてほしかった......。
それはともかく、色んな思惑が同時多発的に起こるので事件の核がなかなか見えてこないのがお話としてはやや分かりづらかったかな、と。
しかしこういうシリアスな雰囲気の回は好きだし、なにより可奈ちゃんの見せ場のかっこよさと、その時の燈馬と水原警部の表情に萌えたのでもうそれだけで素敵でしたよ。



33巻


パラドックスの部屋」

アパートの一室で、8ヶ月の間行方不明と思われていた住人の遺体が発見された。しかし、彼の元妻や友人、浮気相手が証言する人物像はそれぞれてんでばらばらで......。


謎の提示が魅力的ながらも、どう膨らませるのか心配になっていたところ、予想外にパズルみたいな展開になって面白かったです。
そして、かなり人工的なロジックの組み方なのに、読み終わってみれば等身大の1人の男の姿にエモさすら感じます。あの終わり方、良すぎでは......。





推理小説家殺人事件」★★2

推理作家が自宅の風呂で溺死した。当初は事故と見られたが、被害者は似た状況でのトリックのアイデアを仲間の3人の推理作家に話していたことが分かり......。


とりあえず、推理作家の飲み会が面白い!ミステリファンには楽しいっす。
トリック自体ははじめから明かされてるし、補足のトリックもまぁ単純なものなのでそんなに。
犯人特定のためのロジックはこれもパズルっぽくて面白いものの、どうしても言動に依っているので説得力に欠けるのが惜しいところ。
動機もちょっと、うーん。
いつもながらのアイデアの詰め込み量はさすがなものの、それぞれちょいちょい物足りない一編。




34巻


「災厄の男の結婚」★★★3

結婚を機に難民救済の慈善事業を始めたアランとエリーだったが、開発銀行の起こしたらしいトラブルに巻き込まれてしまう。挙式までにトラブルを解決するため燈馬たちは奔走するが......。


ご結婚おめでとうございます!!!
最初はイヤミなキャラだったアランがどんどん(子供っぽさはあるにせよ)素敵な旦那さんって感じになってくのが笑えるけど感慨深くて幸せになってくれやと思う。

それはともかく、挙式編だけあってシリアス色が強く壮大なテーマが描かれます。
しかし、タイムリミットサスペンスでもあるので重くなりすぎないのもいいバランス。
いや、そんでもぶっちゃけかなり胸糞悪い話ではありますが、それをこんなめでたい席でやっちゃうことで2人の覚悟とかも伝わってきて、、、うん、、、エリーさん幸せになってくれ......。でも今夜だけは泣かせてくれ。それで君のことは忘れるから......。

いや、私は何を言ってるのでしょうか。とにかく、ウェディングドレス姿が美しい傑作です()。





「母也堂」★★★3

遠野で資産家の祖母と暮らす可奈の友人に会いに行った2人。その少し前、彼女の父親は鍵のかかった車の中で銃死していて......。


遠野のロケーションが良いですね。
とはいっても妖怪とか民族学がフィーチャーされるわけではなく、資産家の家のゴタゴタのお話です。
とにかくババアの存在感が強くて、言ってしまえばこのババアが全てのお話ではあるのですが、お話一本を支えるババアのキャラを生み出しただけでもすごい(なんだそれ)。
それはともかく、燈馬が言う二字熟語通りのトリックも素晴らしい。あまりにも単純すぎて見えないっていう......。
まぁ最後は若干それでいいのかって気もするけど、まぁミステリ漫画にあまり倫理観をうんぬんするのも野暮だしな。




35巻


「二人の容疑者」★★★3

運送会社で盗難事件が起き、犯行を見つけた社長が殴打された。社長は命に別状はなかったが暗くて犯人の顔を見ていなかった。しかし、状況から2人の従業員が容疑者に上がり......。


水原警部に憧れる新米刑事さんが主役のお話で、どちらかと言えば彼の成長に重きが置かれてる印象。
だから、事件自体はシンプルでやや物足りないくらいですが、そんでもこうでこうでこうという論理と伏線の作り方の綺麗さはさすが。
で、件の刑事さんに対する燈馬くんのナチュラルな上から感がいいっすね。私なんぞは妙にこの刑事さんに感情移入してしまったのですが......。





「クリスマス・プレゼント」★★★★4

ひょんなことから演劇部と共にクリスマス公演のミステリ劇をやることになった燈馬たちとミステリ同好会の面々。燈馬の書いた脚本に沿って練習を始める彼らだが、度重なるトラブルに見舞われる。劇は無事に上演できるのか......!?


てんこ盛り!
とりあえず演劇部長のめちゃくちゃなキャラに加え、ミス研の人たちも出てきてにぎやか。
ミステリとしては燈馬脚本の作中劇のトリックと、作中現実の劇妨害事件の二本柱。
内容が濃すぎてやや駆け足な感はあるものの、前者はおよそミステリファンならテンション上がらざるを得ないシロモノだし、後者も意外だけど納得の犯人に「やられた!」と地団駄踏みました。
しかし、なんと言ってもラストの可奈ちゃんの一言が可愛すぎて抱きしめたくなりますね(殺される)。
もう何度目のクリスマスだよとは思うけど、まさにクリスマスらしいわちゃわちゃと多幸感に満ちた傑作でしたので文句言えねえ。




36巻


「黒金邸殺人事件」★★★3

京都・K大学の黒金教授が首吊り死体で発見され、教授と確執のあった破天荒な研究者・烏丸が疑われた。旧知の烏丸の疑惑を晴らすため京都に呼ばれた燈馬だったが......。


研究者のドロドロした内幕のお話。
なかなか胸糞悪いお話の中で、烏丸の変人だけどスカッとしたキャラが一服の清涼剤になります。
トリックはわりと「そんなうまくいく?」と思ってしまうものではありますが、それだけに意外性はなかなか。
なにより、最後まで読むと烏丸以上にとある人物の姿が残像のように印象に残ってしまいます。





「Q&A」★★★3

知人の銀行家の頼みで、彼の4人の子供たちの中から事業の後継者を見極めるためエーゲ海の島を訪れた燈馬たち。そこで奇妙な出来事が連発して......。


構成がなかなか凝っているお話。
キャラクターたちが次々と"誰か"に対して島で起きた事件について語るという構成。それぞれの視差によって同じ出来事が微妙に違う見え方がして繰り返しなのに飽きさせないのが上手いです。
そして、解決編はまぁなんとも抽象的な話で分かるような分からないようなですが、(ネタバレ→)この物語自体が詩の内容をなぞっていたこいうこだわり(?)は見事。
そして、燈馬自身に少しだけ焦点が当たるのも珍しく、なんだかんだ見どころの多いお話。




37巻


「殺人講義」★★★3

笹塚刑事の研修に付き添ってFBI捜査官のプロファリング講座に出席した燈馬たち。しかし、警察関係者が集まる中で殺人事件が起き......。


ミステリとしては小粒なものの、とある一点から今まで見えていなかった論理の筋道が照らし出される推理が美しいです。
クローズドな中での汚職や過去の因縁といった警察ものの雰囲気をむんむんに出してくるのも良いですね。
そして、プロファイリングによる推理と、それを超える燈馬の推理の二段構えも見どころ。さらには皮肉なラストと、突き抜けたインパクトこそないものの非常に綺麗にまとまった一編です。





「アニマ」★★★★4

アニメの原画を拾って制作会社に届けた可奈。その会社では有能だった作画監督が理由も告げず突然退職していて......。


はい、これは偏愛枠。
もうね、燈馬くんこの話に関してはいらない子なんじゃないかってくらい、ストーリーが良いです。
最近ではそうでもないかもしれませんが、楽しそうなイメージのあるアニメ業界の裏側の過酷な部分がライトな語り口ではありながらもしっかり描かれます。それはもう夢を追う奴隷とでも言うべき生活で、私なんかが「仕事しんどい」とか言うのがいたたまれなくなるほど。
そんな中、淡い憧れを抱く元上司の女性を忘れられない主人公の姿が切なく、なにより謎が解かれた後の物語の着地点が切なすぎる。
ミステリとしては小粒で薄味ながら、お話としては印象深く素晴らしかったです。


38巻


「虚夢」★★2

ひょんなことから映画プロデューサーの家に招かれた燈馬たち。彼は出資者、脚本家、主演俳優らと共に再起をかけた作品に着手しようとしていたが何者かに殺害されてしまい......。


アニメの次は映画で、こちらも夢追い人の哀切話。
トリックは非常に漫画向きというか、ビジュアル先行で見たいやつ。文章で読んでもピンと来なそう。
動機の酷さもさることながら、それぞらのキャラの印象がガラッと変わるラスト1ページが秀逸。この話に限らずですが、短くてスパッとキメて終わるところがこの作者の巧さですよね......。





「十七」★★★3

江戸時代、天才数学少女がとある謎を込めたお堂を建てた。そして現在、神社の資料館を建てるために取り壊されることに決まったそのお堂を見た燈馬は......。


ま、ま、ま、まずは......巫女さん!の可奈ちゃん!がかわいうつくしい!表紙ありがとう......。
はい、内容はというと、まずは数学ネタがこれでもかと詰め込まれていて、天才数学者の私をもってしてもちとややこしかったですね......嘘です。読み飛ばしました。スンマセン。
謎解きにも数学的な解説が関わってくるので正直ほぼ分かってないですが、それでも、天才でありすぎたが故の孤独というテーマを悲しくも優しく描き出したドラマは素晴らしく、これまで読んできた燈馬くんの姿とも重なってまた感慨深いですね。
あと神社の人とか算学の先生とか脇役も良い味出してる。
謎解きほぼ分かんなかったけど楽しめる素晴らしい物語でした。




39巻


「ああばんひるず6号室事件」★★★3

とあるボロアパートの開かずの間で、大家が不審な死を遂げた。しかし、住人たちにはそれぞれ事情がありながらも殺人に至るほどの動機は見当たらない。可奈は謎を解くため大家代理としてアパートに潜入し......。


OLのお姉さんが可愛かった。
解決編前でのちょっとしたサプライズや、ちょっとバカバカしいようなトリック、細かい推理を積み重ねていく謎解きと、小技をたくさん詰め込んで一本に仕上げた小器用なお話。
そして事件の構図自体もなかなか意外なもので、このシリーズにちょいちょいあるインパクトは弱いけど満腹感のある一編です。





「グランドツアー」★★★★4

燈馬たちが招かれたのはボイジャー計画に関わった教授の引退パーティー。しかし、かつてボイジャーに全てを懸け、そのために妻を亡くした教授は、意味深な言葉を残して姿を消し......。


これは良い。
ボイジャー計画という実在の大事業の上に人間ドラマを展開するという、良い意味での大ボラの吹き方にワクワクします。
とはいえ、ストーリーはシリアスで、偉大な研究に没頭するあまり新婚の妻を省みるのことの出来なかった男の後悔という重いテーマが全編を覆います。
事の真相はわりとそのままではあるんですが、「人間は様々な側面から評価される」というようなセリフもある通り、誰も純粋に悪くはなかったのに起きてしまった悲劇が悲しいです。
そして、そこで終わるか!という幕の引き方も凄い。ブツっとあっけないようで納得はいきますからね。




40巻


「四角関係」★★★3

知人の恋愛相談に乗るうち、A→B→C→D→Aと片想いが連鎖する四角関係を暴き出してしまった燈馬。可奈とともにダブルデートを企画するなど慣れない恋愛問題の解決に奮闘するも、ある日関係者の集まった書店で盗難事件が発生し......。


これまで色々な難題を解決してきた燈馬くんですが、恋愛相談を受けちゃうのには笑いました。案の定、可奈ちゃんの助けを借りてどうにかこうにか四角関係の当事者たちのダブルデートをセッティングするのですが..................
このダブルデートに付き添う燈馬くんと可奈ちゃんのエグいデート感に胸キュンせざるを得ないんですわ。
そして、モテないおっさん、地味系美少女、イケメン、美女という4人組の駆け引きもまたキュンキュンしたりしなかったりで......。
いつもはミステリ部分に関していう事ですが、これだけ短いページ数に、今回は4人それぞれのバックグラウンドや相関関係をきっちり描き切る密度の濃さが素晴らしいです。
その分さすがにミステリ部分は薄味にはなるのですが、今回ばかりはもうそこはどうでもいい!切なくもハッピーに近いエンディングにほっこりできたので、それで満足です。





「密室No.4」★★★3

無人島での殺人ミステリーツアーの企画モニターとして招待された燈馬、可奈、江成の3人。推理作家が用意した密室トリックを次々暴いていく燈馬たち。しかし、模擬体験の後で、本物の殺人事件が起こって......。


正直なところ、密室の謎を解くだけで犯人当てとかがないリアル謎解きゲームがいまいち盛り上がらなそうだなぁと思ってしまいますがそれはさておき......。
密室トリックの普通の事件では使いづらい没ネタをまとめて放出したようなゲーム内のトリックはバカミス臭くてなかなか楽しかったです。
そして、現実の殺人のトリックはさすがにもうちょい凝ってて、シンプルな盲点にあっと驚かされました。でもこれもちょっと脱力系のトリックではあり、全体にバカミス好きには嬉しいお話でした。