偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

道尾秀介『カエルの小指』感想

カラスの親指』から11年越しに刊行された続編。


詐欺から足を洗って実演販売士として慎ましくも真っ当に生きてきた武沢竹夫。ある日、中学生のキョウが実演販売の弟子入りを志願して来るが、キョウには実は竹夫との因縁と悲しい過去があった。かくしてキョウのためにもう一度だけ派手なペテンを仕掛けることにした竹夫と、かつての仲間たち、まひろ、やひろ、貫太郎だったが......。


私が前作を読んだのも10年くらい前だと思うので、内容も薄ぼんやりとしか覚えてなかったけど、そんでも冒頭でかつての仲間たちがあの男の墓前に集まる場面を持ってくることで否応なくアイツらが帰ってきたぞ!というワクワクを感じさせられます。

本編に入ると一転して実演販売のシーンからはじまるんですが、実演販売における様々なテクニックが披露されて、ここからしてもうめちゃ面白い。
そして、本作全体がこの実演販売のようなテクニックを駆使して続きが気になるように気になるように描かれています。
各シークエンスの終わりで気になることが書かれて、その意味が毎度少し後になってから明かされるため、グイグイ読まされてしまうんです。

そしてキャラクターももちろん魅力的。
前作からのキャラはもちろんですが、新キャラの子供たちも良かった。
貫太郎とやひろの息子の"テツ"は、名前が出てきただけでもうアツいんですけど、大人顔負けの機転とデジタルネイティブの技術力で普通に大活躍しまくっててカッコよかった。
そして、本作の主役とも言うべき中学生のキョウは、詐欺師のせいで母親を自殺に追い込まれた悲しい過去の持ち主。そんな経験をしたからこその強さと弱さが印象的で、最初は得体の知れないガキみたいな感じで登場しつつ、だんだんその心情が明かされていくにつれてどんどん好きになってしまいました。
そして、前作では主役だったタケさんたちが、キョウを救うために奮闘する脇役のような立ち位置になっているのがカッコいい。

そしてもちろんミステリーとしてもめちゃくちゃ楽しいんです!
前述のように序盤から細かい謎とその解決を繰り返しながらだんだんとキョウの背景や過去が明かされていく形になっていつつ、終盤ではもちろん二転三転どころじゃない意外な展開の連続。そしてもちろん、その意外な展開を越えた先にしっかり人間ドラマがあって、泣きながら驚く人になってしまいました。
やはりあの名作の続編としてわざわざ出すだけあって、道尾秀介の近作に多いライトなコンゲームっぽいミステリの中でもダントツで面白かったです。タイトルの意味もエモかった。