偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三津田信三『逢魔宿り』

家や建物にまつわる怪談を中心にしたホラー短編集。

まぁ一言で言ってしまえばいつもの三津田怪談ですね。三津田信三本人が収集した怪談という体で描かれ、コロナ禍における著者の暮らしとかも少しだけ垣間見られてファンにはそりゃ嬉しい短編集でした。



「お籠りの家」
もうすぐ7つになる少年が見知らぬ山奥の屋敷で見知らぬお婆さんと二人お籠もりをさせられ......。

本書全体としては現代ものの怪談集なんですが、これだけは昭和中期くらいのイメージで刀城言耶シリーズの挿話にでもありそうな雰囲気があって良かったです。
和テイストなんだけど、クライマックスでガンガン追い詰められるところとかは洋画のホラー映画みたいな派手さもあって怖いけど楽しかった!



「予告画」
小学校の教師の主人公が受け持った少年の描いた絵が身の回りで起こる凶事を予告していき......。

予告画という題材自体がとんでもなく魅力的で、本編に入る前の予告画とは何ぞやという紹介のパートだけですでに面白い。
本編も本当に予告してんのか偶然なのか?という半信半疑でいるうちにどんどん追い詰められていくような嫌な感じが怖いし、ミステリっぽい要素も本書の中では色濃くて面白かったです。



「某施設の夜警」
とある宗教施設の夜警になった主人公が、教義を具現化した施設の庭で得体の知れないものに追われ......。

現代アート風な宗教施設のオブジェという、昼間に見たら怖いというよりヘンテコなものが夜になると堪らなく不気味になる。そしてその中を巡回警備しなければいけない......という舞台設定と状況設定が上手い。
さらに主人公が兼業作家なので、逃げたいけど暇な時には原稿を書けて給料もいい仕事を手放せない......というジレンマも心理的圧迫をかけてきます。
また、迷路みたいなオブジェの中を歩いていくのはちょっとゲームっぽさもあって楽しかった。雰囲気的には天命反転地みたいなイメージで読んだんだけど、あそこ昼行ってもちょっと怖いしな......。



「よびにくるもの」
祖母から頼まれてとある家に香典を届けにいく主人公は、「香典だけ渡したらすぐに帰ること」という祖母の言いつけを破ってしまい......。

香典だけ渡してすぐ帰ってこい、という異様な言いつけそのものがすでに怖くて、それがあるからか実際に行ったその家もやっぱ怖くて、それなのになんか頼み事を引き受けちゃう主人公にイラッとしながらも私も頼まれたら断れないタイプだから「分かる〜」ともなってしまってつらかった。
結局なんだったのか全くさっぱり分からんのに、なんかヤバいこととなんか自分が狙われてることだけは分かるってのが怖いっすね。



「逢魔宿り」
本書のこれまでの短編を雑誌連載で読んだ旧知の装丁家から話したいことがあると連絡を受けた三津田は、30年前に体験した奇妙な話を聞き......。

最後に本書のまとめの表題作。
雨宿りをしながら聞かされるいくつかの怪談......という、短編の中にいくつかの挿話が入る贅沢な構成は良かったです。
ただ、正直なところ各話をまとめるにしてはそんなに驚きとかもなく、こんくらいのまとめ方で変に作為性を出すよりは独立した話にしといた方がリアリティが保たれたのでは......という感じもしてしまいます。