偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高麗葬(1963)


高麗葬(姥捨)の風習のある山奥の貧しい村。幼い少年のクリョンは、母親の再婚相手の10人の息子たちからイジメを受け、片脚が不自由になってしまう。村の巫堂(巫女)は「クリョンは将来10人兄弟を皆殺しにする」と予言した。それから20年が経ち、クリョンは唖の女性を妻に迎えるが......。



韓国の歴史には詳しくないんですが、舞台はおそらくタイトル通りの高麗時代?らしく、昔々のお話ですといった感じの衣装やセットの世界観がまず良い。
とともに、そんなお話の冒頭にイントロダクション的に現代のテレビの討論番組か何かで人口抑制について語るシークエンスが入ってくるという構造は『下女』にも通じるところがあり、本筋の内容を単なる昔話に終わらせずに現代に生きる私たちに突きつけてくる恐ろしい作品になっています。

んで本筋の方はというと、姥捨の話は終盤になるまで前面には出てこず貧しい村の強烈な飢えと、悪意や差別による地獄みたいな日々が、普通に「20年後......」とか言い出す長〜い期間に亘って描かれていってとにかく気が滅入ります。たまたま好きなケーキ屋さんでめちゃ美味しいケーキを買ってあって食べながら見たので物凄い罪悪感に囚われました。
てか少年時代のエピソードでは可愛かった主人公のクリョンが「20年後......」とかいって一瞬にしてもっさいおっさんになるのはかなりショックでした笑。

それはさておき、その20年後あたりからどんどん救われない感じになっていって、クリョンが結婚する唖の女性のエピソードとかもうつらすぎるんだけど、「びっことは死んでも結婚したくない」「喋れない妻なんか恥ずかしい」みたいなお互い激しくヘイト発言かまし合ってる謎のテンションの高さにも圧倒されました。
ちなみに本作は映像がかなりたくさん消失していて、音声(日本語字幕)だけで説明されるパートが何回かあるんですが、その中で「妻が5回失神する」っていう字幕があって何が起きているのかめちゃくちゃ気になってしまいました。

そして、そこからさらに時は経ち......いよいよ姥捨のお話になってくあたりからは尖った演出も増えてさらに面白くなっていきます。
特に姥捨山の髑髏まみれのセットがキマっててカッコよく、そこで繰り広げられるめちゃくちゃツラいのにドリフのコントにしか見えない母親を捨てるシークエンスの凄味ったら。なんでこんなツラい話をコントにしちゃうのか......エゲツないっすわ(あと鳥が怖すぎる)。
そしてそこからさらにラスト数分とかで急にバイオレンス全開になったりしてからのいきなり因習を断ち切ろうみたいなメッセージが押し出されてきたりと、とにかく変な映画で、めちゃくちゃ面白かった(そしてつらかった)です。