偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ドント・ウォーリー・ダーリン(2022)


理想の暮らしが繰り広げられる街で、アリスは夫のジャックと幸せに暮らしていた。
しかしある時バスの中から飛行機が墜落する光景を見て、立入禁止区域に足を踏み入れてしまったことから徐々に彼女の身の回りでおかしなことが起こり始め......。


『ミッドサマー』のフローレンス・ピューと、寿司レストランでお馴染みのハリー・スタイルズという顔面インスタ映え俳優2人による、インスタ映えユートピアスリラー。
なんせ青い空、白い雲、プールにおしゃれなお家におしゃれな服、おしゃれな車で男たちが一斉にいってきま〜す!女たちは笑顔で元気よく見送ってお料理にお洗濯......という、「理想」のオシャレ生活が冒頭から繰り広げられ、あまりの人口性に笑ってしまいます。
しかし、それがどうやら本当に人工的な暮らしらしいという仄めかしが序盤からガンガン入ってきて、その「明るさが怖い」不穏さはそれこそミッドサマー風......。

しかし、本作のが更に、何なのかワケ分からない。
中盤までほとんど意味深な仄めかしだけで構成されたお話で、何かがおかしい、何かが起きている、みんな怪しい、この世界はなんなんだ???と無限の謎がぽんぽん投げられて混乱混乱また混乱!
そして、空の卵とか踊りとか赤い人とか、不穏さの演出もすごい。意識してるのかどうか分からんがミッドサマーはじめ、『サスペリア(リメイク)』『アス』『ウェイワードパインズ』(ツインピークス?)など好きな作品の要素が入ってて好みでしかない!
なんとなーくそういう感じの話かなぁ、という想像はしながらもワケ分からない不快感の気持ちよさを堪能しながら観れます。

そしてアリスが徐々に追い詰められていく過程がまたじわじわとイヤな感じで愉しいですね......。自分では完全にこの街がおかしいことが分かっているのに、自分の方が異常者扱いされるという理不尽さ。
フローレンス・ピューの綺麗なんだけど憂いとか危うさのある顔がこういうサイコスリラーにめちゃくちゃ合うんですよね。というか顔が良すぎる......。衣装がシーンごとに変わるのも全部可愛い。好きになっちゃう......。

終盤まではずっとワケワカランのやけど、最終的に意外とちゃんと親切に説明してくれるのも好きです。
オチ自体はまぁ既視感はなくもないけど、作り物めいた「映え」映像の雰囲気と、いろんなガジェットが詰め込まれた楽しさと今風なメッセージ性とがあることで新鮮なインパクトがあって凄かったです。
胸糞悪いけど立場上あの胸糞悪い人たちの気持ちも分からんではないのがつらいところ......。
あとエンドロールまでおしゃれで不穏で素敵!

以下ネタバレ。






























































男のために作られた街、というのは想像が付きますが、それが女性の活躍により「バリバリ働いて家族を養う」という男らしさを奪われた(と思ってる)人の捻れた嫉妬によるものだというのは酷い話すぎて想像つかなかったです。
しかし私もいわゆる「デキる女」みたいな人を見てるとどうしても存在を否定されたように感じてしまうという男の呪いを持っているので、主観だけで言えば彼らの気持ちの方が分かってしまうということに唖然とし恐ろしくなりました。

お話としては、街が人工的なことは分かってたものの、VR空間的なやつだとは思わなくてびっくりだし、理想のハリスタと現実のバリスタのギャップがマジで悍ましくてインパクトありすぎ......。
そっから急にカーチェイスしたりする変なジャンルミックス感覚みたいなのも面白かったです。