小市民新作に続き、こっちもまだ読んでなかったのでこの機会に読みました。
- 作者:米澤 穂信
- 発売日: 2019/06/14
- メディア: 文庫
古典部シリーズもアニメを観て以来遠ざかっていたのですが、原作読んだ上でアニメまで観たので記憶力ない私でもキャラの特徴くらいはギリ覚えてたので懐かしかったです。
全6話収録の短編集ですが、前半3編は千反田以外の古典部メンバーがそれぞれに「わたし、気になります!」モードを発動する話。
福部、伊原、折木の3人がそれぞれの性格や信条のようなものが滲み出ていて、それこそ10年近くぶりの読者に対する改めてのキャラ紹介のようでもありました。
一方、後半3編は他者との関わり方や将来についてといった、もうすこし深化したテーマが描かれます。
各話に(伏線回収的な意味での)繋がりはないのですが、青春小説のテーマとしては流れるように見事な収録順になっていて、1冊通し読みしてこそ味わい深い素敵な短編集です。
以下各話の感想。
「箱の中の欠落」
ある夜、福部に呼び出された折木は、生徒会選挙で全校生徒の人数よりも多い総票数が集まったという問題について相談を受ける。
まず、ミステリとしては正直あまり面白くはなかったです。
「どうやって?」に関しては、不可能状況に見えるだけに、逆に突破口はあそこくらいしかないってのがぼんやりと分かってしまったり。それでもって、それでも興味を引いてくれる「なぜ?」の部分がアレなので......。
いや、小説として折木のキャラとかを考えるとあれで良いんですけど、だからって......。といったところで。
ただ、シチュエーションはすごい良かったです。高校生がちょっと補導されないか心配しつつ夜に散歩するっていう。そして、飯を食う。
食べ物の描写に並々ならぬこだわりを持つ米澤さんだけに、今作でも飯テロ的魅力で食べ物を描いていて、読んでてお腹空きました。
「鏡には映らない」
ひょんなことから、中学の卒業制作で折木があり得ない手抜きをして学年中から顰蹙を買った事件を思い出した伊原。しかし、古典部での折木との関わりから、なにか事情があったのではと考える。
折木の同中からの嫌われ具合が身につまされますね。
真相はまぁ、そんなところだろうなというのは分かってしまいますが、とある慣用表現がそのままヒントになっているのは上手いと思います。
それよりなにより、伊原のかっこよさと折木のかっこよさが垣間見えつつも、最後の最後で折木が可愛いのでこいつあざといなと思いました。←
まぁ、もうすっかりアニメの絵で想像しちゃってるからってのもあるけど......。
「連峰は晴れているか」
中学時代、雷に3度打たれた教師がいたことを思い出した折木だが、福部と話すうち、とある疑惑を抱き......。
引き続き、折木がかっこいい話。
些細な発端から想像を膨らませて意外な事実を見つけるという構成が好き。
意外性の飛距離はそれほどでもですが、この短さでこんな気持ちにさせてくれるのは凄い。これは千反田が惚れるのも分かるわ。
あと、自転車のくだりがどういう意味なのかよく分からなかったんだけど、なんか意味あるのかな......?
「わたしたちの伝説の一冊」
漫研の、書く派と読む派の対立に巻き込まれた伊原。同人誌への寄稿を頼まれるが、アイデアノートを盗まれて......。
まず、冒頭の折木の読書感想文に笑いました。
本題は伊原の属する漫研での派閥争いみたいな感じで、一応ミステリ要素もあるもののそんなことより青春小説として骨太で面白かったです。
もちろん、私はダメな方の生徒の側の人間なので、頑張る伊原へのやっかみ半分で読みましたが。こういう自分のダメさや醜さを突きつけられるから米澤穂信の作品は嫌いなんですよね。
衝撃、というのともまた違いますが、ラスト1行の切れ味が最高。
「長い休日」
休日の散歩中に偶然にも千反田に会った折木は、「やるべきことは手短に」というモットーの由来となった小学校の頃の思い出を語り......。
折木はくそイケメンだけど基本的にこのシリーズでは一番私に近いキャラなので安心感があります。
今回は珍しく彼が休日に散歩をするお話なんですが、主人公が散歩を思い立つだけで笑えるってのはなかなか凄いことですよね。
そして、謎の提示のされ方もありそうであまり見かけないパターンで新鮮です。
折木さんらしいとも言えるけど、こんな会話が長引きそうな話し方をするのは折木さんらしくない気もして萌えますね。なんで折木に萌えてるんだ俺は。
真相は、私の子供時代のまんまでうへえと思いましたね。そしてタイトルの意味も秀逸。いい話でした。
「いまさら翼といわれても」
千反田が参加するはずの合唱大会に姿を見せない。伊原からの電話を受けた折木は千反田の行方を探すことにするが......。
所属する合唱団の出演時間が午後6時、と言う形で日常の謎にしてタイムリミットサスペンスになっているのが良いですね。ハラハラします。
合唱大会で歌う曲、折木曰く「みんなで仲良くしようみたいな歌」らしいんだけどなんだろう。We are the worldとかかな。
ミステリとしても伏線からロジックを組み立てていく様は面白いのですが、やはりその後の苦味が......。
古典部メンバーそれぞれの過去が描かれ、未来を予見させる内容の本書を総括するにふさわしい結末。ほろ苦くも、彼らのことをさらに好きになってしまい、次作が待ち遠しくなる幕の引き方ですね。