偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

道尾秀介『サーモン・キャッチャー』感想

道尾秀介の読んでなかったやつを読んでいきます(数年前にもやったぞそれ)。

屋内釣り堀「カープ・キャッチャー」を軸に、どうしようもないやつらが一匹の鯉を巡る大騒動に巻き込まれていくというお話。

あるトラウマから対人恐怖になったひきこもりの青年・賢史とその妹・智。
同じく人と話すのが苦手な大洞と、その娘で釣り堀でバイトする明。
釣り堀では釣りの神様と崇められる孤独な老人・ヨネトモ。
裕福なのに満たされない気持ちを抱える市子。
という6人が主役の群像劇となっています。

複数のキャラの視点から話が進み、無関係だった彼らがだんだん繋がっていく感じや、細かい小道具が全て伏線として回収される爽快さなど、どこか伊坂幸太郎っぽさを感じるストーリーラインになってます。
ただ、トホホなキャラたちが伊坂作品よりも下世話なユーモアと共に空回りしながら奮闘する様はやはり道尾秀介独特の味わいがあり、新鮮さと安定感が同時にある作品となっています。

また、本作はケラリーノ・サンドロビッチとのコラボ企画で、道尾秀介が小説を、ケラさんが映画をそれぞれ制作するということらしいんだけど、映画の方は未だ音沙汰がないのでちょっと心配になりつつも楽しみです。
舞台劇みたいな雰囲気のある作品なので、そういう感じで映画化されたら凄い合いそう。あとかなりコミカルで現実離れした話だから漫画化しても面白そうだと思います。

ただ、個人的には正直そんなにハマらなかったです。
群像劇になってることでキャラたちが絡み合うドタバタの楽しさはあるんだけど、その分道尾作品でも最もシリアスさに欠ける気がして、ちょっと気が抜けすぎなように感じてしまいました。
また、作中に出てくる架空の国の架空の言語「ヒツギム語」がギャグとして使われていて、空耳アワーみたいに微妙に日本語っぽいってネタなんだけど、終盤になってくるとこれがクドくて飽きてきてしまうのがなんとも......。例えば最初の方の「プライド」のヒツギム語訳なんかは笑いましたけど。

まぁそんな感じで、軽く読めるし色んなものが繋がる気持ちよさはしっかりあるんだけれど、ノリが軽すぎてあまり後に残らないのが好みではなかったかなぁ。