偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』感想

気鋭の歌人上坂あゆ美さんの第一歌集。

去年ハマった『水上バス浅草行き』の著者である岡本真帆さんのマブダチということで気になっていたんですが、この度岡本さんと共著で「歌集副読本『水上バス浅草行き』と『老人ホームで死ぬほどモテたい』を読む」という本が出たのでそれを機に買ってみました。


歌集というものをほとんど読んだことがないのでこれが普通なのかどうなのかも分かりませんが、本書はわりとはっきりと1冊を通して著者の半生を辿るストーリーの形式になっていて、コンセプトアルバムを聴くような気分で読めます。
例えば、序盤のいくつかの連作が黒いページに挟まれていて「暗黒時代」を連想させたり、

沼津という街でxの値を求めていた頃会っていればな

という歌の次から「xの値を求めていた頃」という章題で学生時代の回想のパートが始まったりと、一冊を通して映画か小説でも観てる(読んでる)ような構成になってんのがカッコよかったです。

そして内容はというと私みたいな初心者でも(深読みはできなくても)だいたい詠われている意味自体はわかるくらいの平易さなのも嬉しいです。にわかのくせにわかりづらい方が高級だと思って難しいものに手を出したとて、結局よう分からんくて印象にも残らないのがオチなので、そんなら背伸びせずに分かるものから入門したいな、と思ってる私にはぴったりでした。
あと印象的すぎるタイトルが、下の句のリズムでありながら作中には出てこず後書きで出てくる(そしてそれすら作品の一部になっている)ところも面白いです。