偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

カイロの紫のバラ(1985)

村上春樹と同じでなんか鼻につくと思いつつも時々観てしまうウディ・アレン作品。


暴力的な夫との貧乏暮らしにうんざりしているセシリア。息抜きに『カイロの紫のバラ』という映画を映画館に通って何度も観ていたら、ある時冒険家のトムというキャラクターがスクリーンから飛び出してセシリアをさらって行き......。

本作は映画の中から飛び出してきたイケメンと恋に落ちて......というロマンチックコメディ。
現実の閉塞感と映画の彼との恋のギャップで余計キラキラして見えるんだけど、主人公のセシリアがけっこう冷静なのがなんかジワりました。
むしろ、そういうロマンス部分そのものよりも、それを通して描かれる現実の人生と映画という夢の世界の関係性というのがテーマとして描かれていて、ロマンチックなだけじゃない余韻が残ります。

また、脇役キャラクターが飛び出して行った後ぐだぐだになる映画の中の世界だったり、筋立てがぐだぐだになることで映画館が払い戻しをしたり、そこから発展して映画会社が訴訟を恐れたりみたいなメタなギャグを下手すりゃ本筋よりも力入ってるくらい長々と描いてるところがすごく変で面白かったです。なんの話やねん!?っていう。

しかし80分ほどの短さでわちゃわちゃとギャグとロマンスを詰め込みつつ、最後ああやって終わるのが凄く好き。終わってみれば恋愛映画というよりは映画というモノへの愛を曝け出したような作品で、映画ファンとしてはとてもエモかったです。
































最後、キャラクターのトムじゃなくて実在の俳優を選ぶだろうってのは分かってはいたけど切なすぎる......。
しかしその後俳優にも逃げられて結局元の生活に戻る。落ち込んで暗い顔で映画館に行くんだけど、フレッド・アステアのダンスを見て少し笑顔になる、というほろ苦くも今あるこの人生を生きることを優しく肯定して、映画がそれに寄り添ってくれることを示す結末はエモすぎます。
夫もクズだけどそれは彼の弱さゆえであることが描かれているので憎みきれず、これを機に改心してくれればなと思います。