偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ『三日月ロック』今更感想


2002年9月11日発売の10thアルバム。
つまり、9.11のちょうど1年後に発売されたアルバムです。

三日月ロック

三日月ロック

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2002/09/11
  • メディア: CD


マイアミショックから『ハヤブサ』という名のロック宣言によって立ち直ったスピッツですが、しかし9.11という世界的な大惨劇に触れて音楽をやる意味を見失います。
そんな中で、CMタイアップの依頼をきっかけに再び音楽に真摯に向き合って作られたのが本作ってわけ。

あと、本作からプロデューサーが亀田誠治に代わり、その体制が現在にまで続いています。
まぁ私にはプロデューサーによる違いとかまではあんま分かんないんすけど、このあたりの作品から、なんというかちょっと力が入ったというか、良くも悪くもインディー感が抜けて大作感やJ POP感が出始めたような気はしますね。


また、本作はセルフタイトルのデビュー作以来となる収録曲にタイトルトラックがないオリジナルアルバム。
『三日月ロック』というアルバムタイトルは本作をレコーディングしたスタジオの名前から採ったものだそうです。
しかし、収録曲にも(珍しく)夜っぽい曲が多いため、結果的にはアルバム全体の印象を簡潔に表したドンピシャなタイトルになってると思います。


私が本作を初めて聴いたのがいつだったのかは記憶が曖昧ですが、おそらく高校一年の頃だったと思います。
友達いなかったから当時愛用していたiPodでこのアルバムを聴きながら通学していたことを、通学路の風景と併せて今でもよく覚えています。
赤いレンガの家の前の信号を渡るところで「海を見に行こう」を聴いていたなぁ、とか、時々そんくらいのレベルで聴きながら見た風景とかを思い出せるから音楽って凄いですよね。



それでは以下で一曲ずつ感想を。




1.夜を駆ける

これまでのアルバムでは1曲目は短めの曲が多かったですが、ここに来てそのジンクスが破られ、1曲目のこの曲がアルバム中で最も長い曲になってます。

これ、最近のマイブームからは外れてるものの一時期はスピッツで一番好きだった時期もあるくらい好きな曲。

幻想的なピアノのリフと儚げなアコギ、どこか不穏なリズム隊と、イントロからしていつになく曲の世界観に引き摺り込もうとしてきます。
淡々としていながら今までになく壮大でドラマチックでもあるのは亀田プロデュースならではって気も。

サビでは歌もかなり盛り上がりますが、何よりドラムのリズムが好き。気持ち良いですよね。


歌詞はまた今までになくストーリー性が強くて、歌詞から1本のショートムービーが撮れそうな感じ。
それでいてやはりシチュエーションははっきりとせず、人によってどんな映像でも描けてしまう余白の多さが素敵。

世間的には不倫説が濃厚っぽい感じもしますが、個人的にはそこまで世馴れていない少年少女の禁じられた遊び的なイメージで聴いてしまいます。
駆け落ちのような、あるいは心中行のような、不穏さと、先行きへの不安と、2人だけの無敵感と、そんなようなエモたちが渾然となって迫ってきます。

研がない強がり 嘘で塗りかためた部屋
抜け出して見上げた夜空

という歌い出しからして、閉塞からの解放と、しかしそれが世間的に"正しいこと"からはズレているんだろうという予感を感じさせます。

似てない僕らは 細い糸でつながっている
よくある赤いやつじゃなく

というとこの切れ味も素晴らしい。
映画の『卒業』とか『小さな恋のメロディ』のラストをなんとなく思い出します。

そして、

壁のラクガキ いつしか止まった時計が
永遠の自由を与える

というところが甘美な死を思わせます。
夜を駆けて行く2人の行く先はどこなのか。
「きっと地獄なんだわあぁぁぁ」と私の心の大槻ケンヂがシャウトしますが、現世での滅びの定めに従うよりも断然いいですよね。

ただ、今聴くとそれなりに歳をとって現実的な視線も出てきたので、異性と結婚して男が働いて女が子供を産んで育てて......という常識の檻に囚われたくない恋人たちへの応援歌のようにも聴こえたり。

ともあれ、大学生の頃にバイトの帰り道とかでこの曲を聴きながら自転車で駆けた思い出なんかも蘇ったり。一生付き合える名曲ですわね。

そして余韻を引きずるようにフェードアウトするアウトロ




2.水色の町


からの、「じゃら〜ん」というギターの音とともにいきなり始まる歌い出しの繋ぎ方が最高。
シングル表題とは思えぬ憂いとか倦怠とか諦念とかその裏の甘美さとかがある、初期を思わせるような陰気系エモ曲です。

この曲に関しては地味にギターが好きで、イントロの「じゃら〜ん」も印象的だし、「優しくなって〜」のバックのちゃらちゃらちゃらちゃらちゃららら〜んもめちゃくちゃ良いし、サビの後ろのカッティングっぽいのもゲロエモいし。
そもそもサビが「ららら〜ううう〜」だけなので、その分ギターが目立ってますよね。スピッツの曲はどうしても歌と歌詞を聴いちゃうからね。たまにはこういう歌と演奏の比重が同じくらいのサビも新鮮。


そして、歌詞は通説通りですがさすがに後追い自殺の話にしか聴こえません。
「夜駆け」に心中のイメージを持ったのも、この曲との繋がりのせいもあるのかも。

詳しい説明はもう省きますが、そうだとするととにかく切ないですよね。
君に会うために全てを捨てるというか、君だけが全てというか、そういうある種依存的な危険な愛に哀しくも憧れてしまうのです。
プレゼント持ってるのも切ない。

あと、「頸の匂い 明るい瞳」と一瞬だけ描かれる君の断片的な思い出が非常にリアルでハッとさせられます。

なんかもう言葉では説明できないけどめちゃくちゃ好きな曲なんですよ。




3.さわって・変わって

陰気な2曲からガラッと180°雰囲気を変えて明るくポップでテンション上がる感じのこの曲。

「夜」とか「水色の街」とかいうぼんやりした舞台設定から一転して「天神駅」という具体的すぎる地名が出てきたりもして、なんつーかこの世に帰ってきた感じ。

この曲ではベースとドラムが好きで、2番の「三連負後......」ってとこからいきなり激しく動き出すベースが気持ちいいのと、大サビあたりのドラムの躍動感がすげえ好き。


で、歌詞はもうズバッと直球でセックスの歌なんですけど、初期の「俺が曲作るときのテーマは死とセックスだけなんで......でゅふふ」とか言ってた頃の草野マサムネのセックスに対する畏れはもうふわっと蒸発してしまってただのエロ賛歌みたいになってて笑います。

最後の

言葉より確実に俺を生かす

というとこなんかもう、そのままですよねw
そのままではありつつも、

行き交う人の暗いオーラがそれを浮かす

という鋭い情景描写や、

ぬるい海に溶ける月 からまるタコの足

という独特のエロ表現など、ただのエロい人では書けないエロ詩人の面目躍如たるフレーズも盛りだくさんで楽しい1曲です。

また、

愛も花もない夜を超えて

というところから、たぶん「君」が主人公にとってはじめての相手だということも伝わってきて、そうすると3連敗後3連勝もなんだか微笑ましく応援したくなってしまったり妙に身につまされたりします。
タイトルの「変わって」というのも、卒業しましたってことだよねきっと。

ともあれ、なんか昔のスピッツの影響でセックス=怖いというイメージが定着してしまったので、こういう「セックスって初めてやってみたけど最高やん!」みたいなバカげた曲もあってくれると気が楽になりますよね(?)。




4.ミカンズのテーマ

これはまたヘンテコな曲ですね。

イントロがもう、ぽくぽくと木魚みたいな音と2本のギターが変な掛け合いを延々繰り広げてるのをバックに「初めましてのご挨拶〜」と歌い出す、なんかズレてる感が堪らんですわ。
一回ぐっと盛り上がったかと見せかけてもっかいABメロやってからのサビでは急にオシャレなギターカッティングが入ってきたりと、アレンジの奇妙さがもう最高に楽しいっす。

ただ、歌詞はちょっと皮肉っぽいんですよね。
というのも、前作『ハヤブサ』の直前にスピッツはレコード会社に勝手にベストを出される、いわゆる「マイアミショック」という事件を経て、「もう解散して別のバンド名で出直そうか」なんてことを話し合っていたらしく......。
その「別のバンド名」の中の案の一つが「ミカンズ」だったってわけで......。ハテナッチセブンクエスチョンズ的なね(違)。

つまりは、スピッツが一度死んで再出発するって歌なんですね。

......っていうバンドのストーリーに、悩みながらも恋を諦めない健気な青春ソングをひっかけてもいて。
デビュー曲でバンド紹介しつつベタなラブソングでもあるっていう趣向自体がなんか古き良き感じがして笑っちゃいます。
ミカン→甘酸っぱい→恋愛、というベタな......。

で、あくまでミカンズの曲だからか、スピッツの曲には珍しい表現が多々出てくるのも面白いです。

「紹介しよう」と「前頭葉」のゆるい韻の踏み方とか、「がんばってやってみよう上向いて」という捻りのない応援ソングみたいな詞とか、「変わんねー」という雑な語尾とか、スピッツには(なくはないけど)珍しいですもんね。

あとは、オチの「実は恋も捨てず」の「実は」が好きだったり。

全体にしっかりしたまとまりはなくも、なんとなーく細部の部分部分を楽しみながら聴ける曲ですね。




5.ババロア

またスピッツには珍しい打ち込みサウンドを前面に押し出した曲です。
ファンの間ではそこそこ人気がありつつも、こないだの『見っけ』の特典ライブディスクで草野マサムネご本人に「存在を忘れてた曲です」なんて言われちゃった可哀想ないらない子でもあります()。

印象的なギターのリフと、宇宙的な広がりを感じさせるシンセの音、そこに入ってくる絶妙にチープな打ち込みのずっちーずっちーと、やけにごりごりしたベース。
リズムは打ち込みだけどところどころでちょっと遠いところから響いてくるような音色で生のドラムも聴こえて、非常に不思議な、しかしダークで格好いいサウンドになってます。
全編にわたって打ち込みとシンセが幅をきかせてるからこそその隙間に入る生音が印象的で、打ち込みなのに全然泥臭さも感じさせて、いい意味でオシャレじゃないところがスピッツの良さだと思ってます。めちゃ好き。


歌詞はまた非常に難解、つまりはわけわかめなんですが、2番のサビで「君がいた夏の日から止まらないメロディ」というフレーズがあることから、今はいない君に会いに行きたいと願う話......という大枠はなんとなく理解できます。

あとはもう細部からイメージを膨らませるだけ。
とりあえず、全体に厨二病臭いワードが飛び交うのが草野正宗の歌詞としては珍しくて面白いですよね。
星とか宇宙はいつものことですが、ニセモノとか闇を這う風とかがなんとも香ばしくて素敵です。

輝くためのニセモノで、驚いて欲しいだけの見え透いた空振りをかますようなダサい俺が、柔らかな毛布を翼に変えて無様なやり方で......っていう、引きこもり感ですよね。
デジタルサウンドに引っ張られてるのかもしれないけど、妙に現実味というか身体感のない描写が目立って、全て妄想なのではという気もします。
その中で、「真っ直ぐに咲いた白い花」だけが生々しく存在している感じも。
そうなると、いつかの夏を共に過ごしただけの君の思い出を部屋の中で思い返しては会いに行こうと画策するストーカー気質な歌にも聴こえたり。

曲が持つ切迫感が、なんにしろ穏やかではない解釈へと導いてくれる、ダーク系スピッツの名曲ですね。




6.ローテク・ロマンティカ

ややデジタル感がありつつギターリフの印象的なイントロからしてちょっと遊んでる曲。
ノリが良くて激しいんだけど、サウンドはチープな感じでカッコ良さ6に対して情けなさ4くらいのちょいショボロックチューンです。

聴いてると楽しいし好きではあるんだけど、いまいちどういう気分のときに聞けばいいのか分からないような変な曲ではありますね。


歌詞は煮え切らない男のうじうじを強がりの犬に見立てて描いたもの。弱い犬ほどよく吠えるという意味で「スピッツ」のテーマとも言えるのかもしれません。

冒頭の歌詞からは同棲カップルとかなんかそんな感じの悪からぬ仲の2人を連想させますが、聴いていくとどうもそれも妄想なのではないかという感じもしてきます。

本当は犬なのに サムライのつもり
地平を彩るのは ラブホのきらめき

というとこが好きで、強がってるけど遠くに見えるラブホの煌めきに憧れや嫉妬を抱きつつエンジンだけは吹かし続けてるという、それは空吹かしであっても。

なんというか、性欲と純愛への憧れと性への畏れとが渾然となってるのがめちゃくちゃ良いっすよね。

そして、カオスな間奏明けの

思い切り吠える 岬から吠える

というところが性欲の吐露のひとつのクライマックスとなり、その後Aメロが転調されながら続いていきHuh〜で終わるあたりのわちゃくちゃが悶々とした感じを見事に表していて面白いですね。
私も若かりし頃に遠くに見えるラブホの明かりを眺めながら聴いたものです。



7.ハネモノ

9.11の衝撃を受け、音楽をやることの意味を見失っていたスピッツ
そこに舞い込んできたのが、カルピスのCMタイアップの依頼でした。
外部からの働きかけを受け、それならリスナーの不安を和らげるような音楽を作ろうと再起して作ったのがこの曲なんだそうです。

そんな制作背景を知っているからか、この曲からは普段のスピッツのエロとかゆるさとは一味違った真摯さや暖かみを感じたりします。
普段からしょっちゅう聴くことはないけど、気持ちが弱ってる時に聴くとじんわりと染みてくる大事な曲です。

ただ、暖かみはありつつもサウンドは引き続きかなりデジタル寄り。
イントロからロボットの鳴き声みたいなのが入ってたりします。
そこに綺麗なギターの音色と案外ゴリゴリした音のベースがいい違和感となって入ってくるのが素敵。
あと、この曲は歌声がヤバいっす。
「絡み〜ついた〜」のところの掠れ具合とかめちゃくちゃ良い。耳が幸福ってやつっすわ。サビ終わりの「う〜うう〜」の突き抜け方も気持ちが良い。

最初は静かだったのが、曲の展開と共にどんどん力強いサウンドになっていくところも、制作背景を知ってると勇気付けられます。


印象的なタイトルは「羽のような生き物」という造語。後の「ナサケモノ」と並ぶ架空生物シリーズです。


歌詞はまたいつにも増して分かりづらいというか、わりかし分かりやすい曲が増えてきたこのアルバムの中で唯一まるで何のことか分かんない曲です。

それでも、「カルピスのCM」「9.11ショックからのリハビリ」という2つの外的要素からなんとなーく「暑苦しくない夏の応援歌」という印象は伝わってきます。

夏ソングも応援ソングも普通は暑苦しいものなんですけど、スピッツの場合は暑さにうだりながらも「部屋でゆっくりしようぜ」、みたいな感じで、全然押し付けがましさとかがないんですよね。
でも「転びながらそれでもいい調子」「思い通りの生き物に変わる」といったフレーズになんとはなしに元気付けられるような、まさにカモミールのような癒し効果のある、そんな一曲です。

あと指先とか文字化けというワードからはケータイのメールの話なのかな、とも思いつつ、特にそれに関して具体的な解釈は今のところ持ってないです。




8.海を見に行こう

癒し系のハネモノに続いて、これまたのほほんとして癒される曲です。

初期の「海とピンク」にも通じつつ、もちろんより洗練されたイントロの弾き語り風サウンドの海感が素敵。
曲中にはチェンバロやフルートも使われていて、押し付けがましくはない程度にワクワクさせられます。


歌詞はタイトルの通り、明日海を見に行こうって話。
そう言ってる今日はまだ日常の中にいて、そこから海というほんの少しの非日常を想う、そのことが逆に日常の愛おしさを感じさせるような、そんな歌詞なんですよね。

何もない? 何かある? この道の彼方に
フツウだけど 確かに僕の目の前に広がる

というフレーズが好きで、この曲もたぶん9.11という異常な出来事があつたからこそ、フツウの人生の尊さを歌っているんだと思います。
フツウの未来でも、2人で過ごせば、それでたまに海を見に行くくらいの幸せな非日常があれば、やっていけるよね、みたいな。

昔はただのデートに誘う歌だと思ってたんですが、なんだかこの歳になって聴くと染みますね。




9.エスカルゴ

激しいドラムの連打から始まる、このアルバムの中でも特にロックな一曲。
イントロのドラム連打の後の部分はなんかしら昔の洋楽にありそうなフレーズですよね。何かはパッと思い付かないけど。

そして演奏の激しさに耳が行きがちですがサビのメロディもエグい。
さらっと歌うから全然すごく感じないけど、カラオケで歌えないのはもちろん頭の中ですら歌えないです。私には出せないメロディなんですよね、これ。

だめだな ゴミだな さりげない言葉で溶ける心

という歌い出しがインパクト大。
この1行だけでもう俺かよという感じで一気に共感しちゃいましたね。
タイトルの「エスカルゴ」は、

孤独な巻き貝の外から
ふざけたギターの音がきこえるよ

というところから。
殻にこもるにしても巻貝ですから、めちゃくちゃ拗らせてて面白いです。
しかし、そこでふざけたギターの音が聞こえることで2回目のAメロは

湯けむり 陽だまり 新しい光に姿さらす

と最初とは正反対の明るいワードになってる遊び心も楽しいですね。
たぶんふざけたギターの音ってのが恋の始まりで、そっからよれながら加速して行った先に

ハニー 君に届きたい もう少しで道からそれてく
何も迷わない 追いかける ざらざらの世界へ

というサビ。
真っ直ぐなようでいて、道からそれてるしざらざらっていう。
でもざらざらってのが絶妙ですよね。良い意味にも悪い意味にも取れるというか。




10.遥か

イントロの「う〜う〜」の美しさからして一気に引き込まれ、バンドサウンドの入り方もカッコいい。
ミドルテンポのスピッツのシングルの王道な感じでちょっと地味な曲......というのが最初の印象でしたが、聴いてるうちにどんどん染みてくるスルメ曲でもあります。

この曲に関しては2001年の5月にリリースされたシングルなので9.11とは関係ないですが、しかしやはりシリアスで真摯な印象があり、どちらにせよこの時期のスピッツはそういうモードだったのかなという感じがしますね。

「ゆーーめーーかーーらーー」とじわじわ伸ばすサビの歌い方が良いのと、間奏のキーボードだかシンセだかの音も素敵。

夏の色に憧れてた フツウの毎日
流されたり 逆らったり 続く細い道

という歌い出しは、「海を見に行こう」を思わせますが、こっちはもうちょいネガティブな印象。
フツウの日常の大切さよりも、退屈さや厳しさが感じられます。
しかしそんな中でも

君と巡り合って もう一度サナギになった
嘘と本当の狭間で 消えかけた僕が

と、微かな救いを描いています。
「サナギになった」というのは、蝶からサナギに戻ったのではなく、幼虫からサナギになったということでしょうね。
かつてサナギになりながらも羽化できなかった僕が、もう一度サナギになった......という。
そんな状況からの、

すぐに飛べそうな気がした背中
夢から醒めない翼

というサビが、地に足のついたというか、非常に消極的な前の向き方というか......。
飛ぶところではなく、飛べそうな気がしたところまでを切り取って歌にしてしまうあたりがスピッツの良さだし、実際飛んでる時より飛ぶ前の方が複雑な感情ですからね。そういう曖昧な感情を描くのが芸術というものでしょう(大きく出る)。

そうして飛んで行きたい先のことを、最後の最後まで

遠い 遠い 遥かな場所へ

という距離感を持って歌ってしまうあたりの、希望を抱きつつもまだそこに届かないもどかしさもある感じが強い余韻を残します。
余韻といえば、わらしべ長者を思わせるMVはループ構造になっててこれもまた独特の余韻を残します。併せて観たい名作MVですね。不思議なんだけど、曲のテーマになんとなく合致してる感じで。




11.ガーベラ

虫の声のような機械のノイズのような音から、静かなギターのリフとやはり機械っぽさのある打ち込み?っぽいリズムで1番を丸々やり切ってから、満を辞して(?)バンドが入ってくるとこがカッコいい。
前作『ハヤブサ』に入っててもおかしくなさそうな宇宙的、神秘的なイメージを想起させる曲です。
夜の散歩の時とかに聴きたい感じ。あと学生時代のバイト帰りとかによく聴いてましたね。


上でハネモノの歌詞が難解と書きましたが、これもまたはっきりしません。
スピッツの歌詞を読むときのクセでついついセックス方面を連想してしまいますが、あながち間違ってもなさそうな。
ただ、神秘的な雰囲気やハローハローハローという呼びかけからは、むしろ出産の歌のようにも思えます。
なんにしろよく分からないながら、雰囲気で聴いてても全然泣ける名曲ですよね。

あと個人的には、

ガーベラ 都合よく はばたけたなら ここにいなかった

というところを恋愛のこととして読むとめちゃくちゃ共感できて好きです。




12.旅の途中

「けもの道」はなんとなくボーナストラックに近い位置付けの曲だと思っているので、この曲が実質的なアルバムラストです。

前作『ハヤブサ』あたりから、マイアミショックや9.11の影響で音楽をやることの意味を見失いかけ、新たに模索してきたスピッツが、このアルバムのまとめに「旅の途中」という言葉を持ってきてくれたのが嬉しすぎます。
またこの曲のタイトルが、後のスピッツ20周年記念のドキュメント本のタイトルにもなっていて、本作のリリース時に限らずスピッツというバンドは常に旅の途中なんだよなとも思ったり。

歌も演奏も物悲しくも暖かみのある曲で、シンプルなんだけど愛しさと切なさと心強さがみんな入ってます。


歌詞もまた非常にシンプルで、

正気な言葉をポケットに入れて
たまにはふり返る 旅の途中

という一節が全て。
特に語るほどのこともなく、ただスピッツという旅路に末席ながら同行させていただいていることへの感謝が湧いてきます。一生ついて行くからな!

あ、あと、

腕からませた 弱いぬくもりで
冬が終わる気がした

ってとこは最高でわ。




13.けもの道

てわけで、ボーナストラックあるいはアンコール的な曲。
ここまで暗めの曲が多かったところに、最後にめちゃくちゃストレートな応援歌。
アルバムの流れの中では正直異質なので、ボーナストラックと考えてるわけなんです。

前作の表題曲「8823」と並ぶ、ライブでやらないことがほとんどないキラーチューン。
ゴリゴリしたベースイントロからしてテンション上がるし、ライブではここで田村くんが焦らしプレイで煽ってきてさらにテンションぶち上げっすよね。
あとライブでは冒頭の「東京の日の出」ってとこを会場の地名で歌ってくれますからね。名古屋の日の出、すごいキレイだなぁ。


ストレートな応援歌とは言いつつも、歌詞の各フレーズは今まで見たことのないような言葉ばかりで、「夢を追いかけて虹を架けよう頑張ろう君は一人じゃない」みたいなことは全くないので安心して聴けます。

細胞 全部に与えられた
鬼の力を集めよう

とか。
言ってる内容は分かるんだけど、言い方がこうも面白いと、「応援ソングとか嫌いなんで......」と切って捨てることなど出来ず。

スピッツの曲の中ではわりと暑苦しいので、普段からそんなに聴くことはないけど、テンション上げたい時とかドライブの時とかにはめちゃくちゃ聴く名曲ですよね。