偽物の映画館

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山田正紀『囮捜査官 北見志穂4 芝公園連続放火』感想

囮捜査官シリーズ第4弾。
本来はこの次の第5巻が完結編だったわけですが、「シーズン2」立ち上げの都合により5巻は欠番となり次回から令和編がはじまるようです。そちらも楽しみ。



東京・芝公園で連続放火事件が発生。さらに、時を同じくして人形のような裸の女性の死体が発見される。その傍にはユカちゃん人形が落ちていて......。


前巻は胎児の記憶をテーマに志穂自身の内面に潜ってアイデンティティを揺さぶるような異様さがあり、その異様な雰囲気がとても好きでした。
一方本作には、平成8年が作中の「現在」であり、そこから戦後の昭和という時代の亡霊のような事件が起こるという、日本の社会・歴史を背景にした異様さがあり、これまためちゃくちゃ好きなやつでした。

国から見捨てられた廃工場の町、停電の続く東京の街、暗躍する放火魔と殺人鬼、ユカちゃん人形に託されて叶わなかった昭和の日本人の"夢"......などなど、本作もまた色んな要素が複雑に絡み合いながら大きなテーマを浮かび上がらせていく過程がたまらんです。
外国で働くカッコいいパパ、綺麗で料理上手なママ......みたいな憧れの家族像と、男性の過労死や女性へのケア労働の押し付けといった現実とのグロテスクなギャップが恐ろしい。

ミステリとしては、やはり大量の要素を、まとめ過ぎないままに「昭和」というテーマに収束させるプロットが巧いですよね。
そもそも謎が多すぎる中で、意外とあっさり解決するものと最後に満を辞して明かされるものとの緩急も付いていて、それによってサスペンスとしての盛り上がりも出てきてます。
不可解な現場の状況に対して特にトリックとかがなかったのはちょっと物足りないところではあるかな。

この国の形を描いてる面があるところが五巻に繋がってもくる、シリーズ重要作。
停電の件など、五巻まで読んでも結局解決されない伏線があったりするのは残念ですが、それはそれとしてやはりめちゃ面白かったです。
そして、五巻が封印されてリブートされるということは、もしかすると未回収の伏線も再び日の目を見ることになったりするのかな?ともあれおそらく10月にシーズン2の一作目が出るっぽいので楽しみです。