偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ノック 終末の訪問者(2023)

なんかもう先に言っちゃうと、シャマランがどんなに微妙な作品を作っても、シャマランが数年ごとにちゃんと新作撮って日本でも上映してくれるだけでファンにとってはめちゃくちゃ嬉しいんですよ。ただ、それはそれとしてチョー微妙でした......。いや、ツマランわけじゃなくシャマランなので、まぁそれなりに面白いんだけど、だけどさぁっ!っていう......。


キャビンで休暇を過ごすゲイカップルのアンドリューとエリック、養女のウェンの3人家族。
そこを訪れた4人組の男女は、「世界の終焉を防ぐため、家族の誰か1人を生贄にしろ」と迫り......。


舞台はキャビンとその周りの森だけで、たまに挟まれる回想シーン以外はほぼワンシチュエーション。
訪問者たちの正体など謎しかない物語を回想を織り交ぜながらテンポよく進めることでワンシチュでも飽きさません。また、パパ2人と養女という血の繋がりのない主人公たち家族の、だからこそ際立つ絆に泣きつつ、訪問者側も世界を救う使命を抱いていたりと、殺伐としたスリラーなのに悪い人間は出てこないのがシャマラン節っすよね。頑なに悪人を描かないスリラーの監督が1人くらいいても良いよねっていう。

そして、作品のテーマは(セリフでばしっと言っちゃってるんだけど)「共感(エンパシー)と寛容」であって、訪問者たちの言ってることをイカれてると思いながらも、信じてしまう、というよりは信じたくなってしまうところがあり、またテレビに映る他人の不幸にどこまで胸を痛められるか......というところなんかもコロナ禍からの学びをなんつーか愚直なまでに作品に投影していて好感が持てます。

訪問者たちが自分たちの視た"ビジョン"を信じて行動するところは『レディ・イン・ザ・ウォーター』を思わせるし、舞台となるキャビンや家族の姿は『サイン』っぽさもあるし、なんだか分からない災禍に襲われるあたりは『ハプニング』味もあり、シャマラン作品のエッセンスが詰まっていてファンとしては楽しくないはずはなく。
また、津波や飛行機墜落のシーンも悍ましくもインパクトがあって良かった。

たださぁ、あの、うん、まぁ、我々ファンもシャマラン=どんでん返しみたいなイメージを持ちすぎなのは悪いっすよ。それでシャマランさんのやりたいこととは違うものを期待してしまっているのは否めないし、その結果無理やり変なオチを付けて蛇足になっちゃったのが前作『オールド』ではあったんですよ。ただ、本作は謎や伏線らしいものをめちゃくちゃ散りばめておいて、散りばめたわりになんのオチとか説明もなくそのまんま終わるので、なんかめっちゃ消化不良な気分ですよね......。別にどんでん返し無くても変なツッコミどころがなければ良いんだけど、ツッコミどころだらけですからね......。
どうも原作の結末を変えてるらしいんだけど、原作がどうだったのかもすげえ気になるので読もうかな......。

まぁそんな感じで、ファンの方には観てほしいけどファンはほっといても観るだろうし、ファン以外の方には別に勧めない一作。