偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

EO イーオー(2022)

イエジー・スコリモフスキ監督84歳での最新作はロバが主役のまたまた実験的な作品。



サーカスでの動物利用が禁止されたことでサーカス団から連れ出されたロバのEOが、あちこちを歩き回ったり連れ回されたりしながら色んな人間に出会う......というより見る、という内容。

もちろんロバにはセリフはないので何考えてるか分からないんだけど、憂いを帯びたような表情からなんとなく何を思っているのか想像できてしまうのが面白いです。......というより、ロバの顔はまぁ元から憂いを帯びたようにも見えるもので表情は別にそんな変わらないんだけど、物語において彼が置かれた状況から勝手に想像してしまいます。実際には何も考えていないかもしれないのに、感情を投影してしまうのも人間のエゴなのかも。

そしてEOの行く先々には色んな人間もいて、そんな人間たちの営みを一旦EOの目を通すことで俯瞰的な目線で描いています。
なんというか、人間たちがあーだこーだやってるのもロバから見ると全部ワケワカランことなんだと思うと人間って愚かだなと思う。
動物愛護団体もサッカーチームも金持ちの貴婦人もみんなエゴの塊でみんなナチュラルに気持ち悪い。でも普通に良い人も出てくるんですよね。なんか、これ見よがしに人間批判・文明批判みたいなことをするわけでもなく、良い人もいるけど基本エゴの塊な人間を淡々と映していくのが、なんかガチで人間嫌いそうで好きです。
しかしそれでかえって善く在りたいと思わされたりもするので愛に満ちた映画とも言えるのかも。

まぁ正直どういう話なのかよく分からなかったのでいつもながら分析的なことが書けるわけでもないけど、とりあえず一つ思ったのは人間が作ったデカいものが怖く撮られているってこと。巨大クレーンとかダムとか風力発電とかが、意味とか以前の本能的な死の恐怖を突きつけてきます。そこから戦争とかも結局人間が作った兵器で人間がぼろぼろ死んでいくだけでしょーもないよな、そんで怖いよな、なんてことも思った(別にそういう意図はないかもしれんけど)。

なんせ静かで明確な筋もない映画なので家で観てたら絶対寝てただろうなとは思うけど、劇場で観たら映像の美しさと独特の雰囲気に圧倒されてめちゃくちゃ良かったです。