偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ヤマシタトモコ『運命の女の子』感想

こないだ読んだ『ミラーボールフラッシングマジック』が良かったので読んでみましたが、軽めの読み味のあちらに比べて本書はかなりヘビーで、これまた面白かったです。

帯の言葉を借りれば、サスペンス、ラブストーリー、ファンタジーの3種のジャンルが読み比べできる、3編の中編集。
運命の女の子、という表題からはロマンチックなラブストーリーを想像しますが、そういうのじゃない、背負わされてしまった宿命みたいなニュアンスの「運命の女の子」にまつわる物語たち。
各話読み味が異なりながらどらも甲乙つけ難いくらいにすごかった。なんかもう、面白いとかじゃなくてすごい。



「無敵」
何人もの死者を出した事件の容疑者の少女と、取り調べを担当する女性刑事の対峙を描くスリラー。

初読では殺人鬼と刑事の心理戦を描いたサイコスリラーのようで、でもそれだけじゃない気がして読み返せばあまりに痛ましいひとりの少女の物語のようでもあり、じっくり読めば全ての描写に何か意味がありそうで、どんどん少女の心の中に迷い込んでいくようで、読めば読むほどただのサイコパスものではない得体の知れない怖さが出てくるのが凄い。
細かい描写やセリフの一つ一つにいちいち意味があって、それを拾っていくことで彼女の動機が分かってくる......いや、しかしそれも分かった気になっているだけ?というように、最後まで惑わされ続けてしまいます。タイトルの『無敵』はいわゆる「無敵の人」的なニュアンスも含んでいて、子供で女であるが故に何もできなかった彼女が無敵になってしまったことが痛ましい。だから終盤で子供で女であることを利用するようなセリフを吐くところには恐ろしさと共にどこか痛快さも感じてしまいました。本書の表題にある「運命」を感じさせる最後の独白が圧巻です。
感想がまとまらず何度も読み返したけど結局うまくまとまらなかったけどとんでもない傑作だし、こんなんが中編集のうちの1編でしかないのも驚異ですわ。これだけで長編1冊分の満腹感があり胃もたれするほど。



「きみはスター」
高校時代、成績学年トップ3でともに英語劇部に所属していた3人の複雑な関係を描き出すラブストーリー(?)。

タイトルにある「星」というモチーフに、届かない憧れ、みんなの人気者、孤独な存在、やがて堕ちるもの......といったイメージを織り重ねていくことで、シンプルな3人芝居を複雑で深みのあるものにしてるのが凄え。三すくみのようにそれぞれがそれぞれをスターとして見ているような3人の関係なんだけどその「スター」の種類もそれぞれ違って......。若い自意識たちがむんむんと熱気を放つような物語にアテられて前話に負けず劣らず怖くてゾワゾワする話でして、憧れることの残酷さみたいなのもあって、でもラブストーリーとしての切なさもあって、これも上手くまとまらないけど一言で言い表せない余韻の残る傑作でした。



「不呪姫と檻の塔」
全人類が生まれた時に呪いをかけられる近未来の世界でただ1人呪いを持たない少女と、彼女を好きな少年の冒険を描くファンタジー......というかジュブナイルSFみたいなお話。

ただ1人呪われていないことでいじめられたり自身の存在意義に悩む女の子を描いたお話ながら、重厚で怖い前の2話に比べると軽やかな読み味。
終盤まではやや暗さもありつつ、クライマックスはベタだな!という感じ。でも、(ネタバレ→)「大丈夫、生命に意味なんてないよ」という言葉が、「人生の意味」という、我々にかけられた呪いを解いてくれる、絶望的で爽快で優しいクライマックスに泣きそうになりました。
ただ、(ネタバレ→)真実の愛云々のところはちょっと唐突というか、そういう型にハマらないでほしい感はあったかなぁ。