偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

本陣殺人事件(1975)

市川崑×金田一耕助の1作目『犬神家の一族』が1976年で、それより1年先んじて撮られた、高林陽一監督、中尾彬主演の作品です。


山奥の旧家一柳家の長男賢三と嫁入りした克子の婚礼の初夜、離れ家で新郎新婦の惨死体が発見される。しかし、当夜偶然降った雪には足跡がなく、離れ家は足跡の密室になっていて......。


ストーリーラインはわりと原作に忠実で、しかしATGが関わっているらしく映像の雰囲気はちょっとそれっぽいところもあり、横溝感とATG感のギャップが面白かった!
中尾彬が演じる金田一耕助も、着物に帽子にフケに吃りっていう、いわゆる金田一っぽさとはかけ離れた、それこそ『太陽を盗んだ男』のジュリーとかを思わせるような雰囲気。
なんせ冒頭なんか「夏の葬列」みたいな感じで、事件から1年後の、一柳家の妹の鈴子さんの葬列のシーンからはじまるので、その時点で70年代の雰囲気ムンムン。そこからお屋敷とかが出てくると、作中年代である戦前期の雰囲気も匂い立ってきます。「夏の葬列」と「雪の婚礼」のギャップもバキバキで風邪引きそうになります。
また、妹キャラの鈴子ちゃんがヒロイン格としてかなり目立った扱いになっていますが、彼女のいわゆる白痴美的な妖艶さと可憐さのギャップにもやはりクラクラきちゃいます。
また、金田一シリーズの魅力として死体の幻想的美しさがあると思うんだけど、本作の事件現場の絵面は変な安っぽさや行き過ぎた下品さがなく、美しく再現されていて良かったです。

ミステリとしては、原作もこんな風だったかよく覚えてないけど、種明かしがずいぶん細切れかつ冗長で、せっかくのトリックの面白さがイマイチ伝わってこないのが残念でした。ここはシンプルに名探偵が皆を集めて「さて」と言えば良い気がするんだよな。
ちらっちらっと映像でトリックが仄めかされたり、再現映像が少しずつ入ってきたりしてこっちも身構えてしまい全然驚きがなかったですもん。

その分、このような惨劇が起きてしまうに至る人間という存在の哀しさというのはそこそこしっかり描かれていたので、そこは良かったし、切ない余韻の残るラストも美しくてよかった。

という感じで、原作に忠実なわりにミステリとしての原作の良さを活かしきれていない感じがします。その反面、映像はカッコよく、原作を読んだ上で観たら原作とはまた違った魅力も感じられて嫌いじゃない、というかかなり好きな映像化作品でした。というかぶっちゃけ市川崑バージョンのあのやたらハイテンションな演出より、こういうやや陰鬱な感じの方が原作のイメージに合ってて好きかもしれんわ。