偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

嶽まいこ『なんてことないふつうの夜に』感想

著者はイラストレーターで、普段は本の表紙とかを多く手がけているようです。
そんな著者による、可愛らしく少し不思議な12話の掌編マンガ集。



本書は1話10ページの掌編集。
序盤こそタイトル通り「なんてことないふつうの夜」を描いたお話なんですが、3話目あたりからだんだんとSF(少し不思議)な設定が入ってきたりして、夜更かしする時に特有の高揚感や浮遊感が味わえる一冊です。
個人的には夜といえば孤独とか自己嫌悪とかなんだけど、こういうキラキラした夜も良いよね。まぁ夜の話だけじゃないけど。

そんで絵がとにかく素敵。
可愛くて綺麗で、オシャレなんだけど親しみやすい感じの絵。各話のキャラにこんだけ愛着を抱いちゃうのはお話の良さもさることながら絵の魅力によるところもデカいと思います。

お話は、新たな出会いだったり恋の終わりだったりシチュエーションは様々ですが、ほとんどの話が何か人との関係や自分の気持ちなどが変わる「きっかけ」を描いていて、前後を膨らませば長編にもできそうな物語の1番美味しいとこだけ読めるのが贅沢。そして、この後どうなるんだろうと気にかかるような余韻も良いですね。
そして、続きが気になっちゃう作風だけに、直接的な続きじゃないけどオマケで各キャラが一堂に会して打ち上げをやるっていうクロスオーバーが入ってて、元気そうな姿が見られるのが嬉しかった。

以下各話一言ずつ。


「ビジネス・ロマンス・ホテル」
えっちなビデオの見過ぎで、憧れの異性の先輩と出張ってなったらもういやらしいことしか想像できなかったけどそんなクソみたいな想像を爽やかに裏切ってくれるあまりにも可愛いお話。


「追憶のネットサーフィン」
個人サイトが懐かしすぎる......。このブログの前身である私のサイトもまだ漂流してるしな、と思って久々に見に行ったけど広告に侵されていた。
切なくてほろ苦い話かと思ったら意外な展開になるのが素敵。


「エレクトリック彼女」
こっから急にSF要素が入ってきます。タイトル通りアンドロイドの恋人のお話。
いくらでも嫌な話に出来そうなオチなのに幸せの形の多様性を思わせるハッピーな余韻しか残らないのが凄え。


魔法少女の現実問題」
魔法少女の世界も楽じゃないのね......と思いつつ3人でワチャワチャしてるのが良さがありすぎる。女子に生まれてこういう学生時代を送りたかったワン🐶


「手のひらに地上の星
あまりにもロマンチックな設定からの、あまりにも切なくほろ苦いストーリーに、ここに来て一気に感情を負の方向へぶん投げられた。こういう失恋モノ好きすぎる......。でも最後のオマケの一コマでちょっと空気を軽くしてくれるのが優しい......。


「プレゼン前夜」
超絶大事なプレゼンの前夜、今から寝て起きれるか!?という発端から、想像もしなかった悪夢のような展開が面白すぎる。


「ハングリーガールの憂鬱」
吸血鬼と人間の異種族間恋愛の話ではありつつ、それよりも吸血鬼女子3人の女子会にページが割かれるのが良いし、彼女らがそれぞれ自分のライフスタイルを貫いてるのがかっこよくて1人ずつ連作で読みたいくらい。


「おばあちゃんのサンクチュアリ
老後はこういうおばあちゃんになりたい。


2.5次元胃袋」
モデル級美女版孤独のグルメが始まる時点でちょっとびびるけどそっからの超展開に唖然。
10ページでエモくなれる掌編集の本書において、ギャグに全振りした圧倒的異色作。面白かった......。


「机の上のコンシェルジュ
男が主人公だとどうしても設定の都合の良さが目についてしまうきらいはあるけど良い話だった。ロボットの心情が普通にモノローグされるのに笑う。


「わたしの睡魔」
睡魔がイケメンすぎる......。


「深夜旅行記
夢の中で猫と旅するというロマンチックでファンタジックなお話。寝ている時に見る夢が将来の夢に繋がっていくのが良い。なんか全体にジブリオマージュっぽい、というか露骨に「夢だけど夢じゃなかった!」みたいなシーンもあって笑った。