偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

須藤佑実『ミッドナイトブルー』感想

学生時代の部活の後輩に教えてもらったやつ。

ミッドナイトブルー:色の名称。「真夜中の青」と形容される、ほとんど黒に近い青のこと。

黒でも青でもない曖昧な真夜中の青のように、「恋」と言い切るのは躊躇われるような曖昧な感情を、切なさやノスタルジーを基調にして描いた7編の短編集。

全体に、語り口は軽妙で内容も重苦しくはないんだけど、どこか心に引っかかって余韻が後を引くようなお話が多く、雑な言い方にはなりますが少女漫画っぽさとサブカルっぽさの中間くらいの雰囲気でけっこう好みでした。
また、狐や幽霊など少し不思議なものが出てくるお話も多く、でもそうじゃない話もあって、ファンタジーに寄りすぎてないけどちょっとだけファンタジックな感じもいい塩梅だと思います。
表紙からしてそうですが絵もとても綺麗で、全話通して出てくる女の子がめっちゃ可愛いのでそんだけで読んでて幸せでした(いや、切ないけど)。全体にメガネの男と明るい髪色で垂れ目の女の率が高くて趣味が分かりやすいのもいいっすね。

以下各話一言感想。


「箱の中の想い出」
ある朝目覚めたら部屋に知らない女が......というえっちそうな導入から全然えっちじゃない爽やか切ない少女漫画風の話になってくのが良い。身も蓋もないというか、下手すりゃゲスくなりそうなラストだけど「箱の中」という概念が詩的なせいでなんか良い感じになってるのが上手い。


「夢にも見たい」
儚く切なくもロマンチック。現実には何も起きていないのに、確かに一瞬の交わりがある、いずれ忘れてしまいそうなその一瞬の美しさを浮世絵というモチーフに託して描くクライマックスのシーンが綺麗。むしろこの絵を描きたくてこの話を作ったんじゃないかという気がしちゃうくらい。


「今夜会う人」
日本昔ばなしみたいな雰囲気とBarのギャップが良い。
まさに狐につままれたような終わり方も切なすぎる物語にちょうどいい爽やかさを添えていて素敵。


「花が咲く日」
切ない片想いは好きだけど、ノリの軽さにちょっとついて行けず、あまり好きじゃないかも。


「白い糸」
これはエグい好きすぎる。
白鍋、雪、煙草の煙......白という色をモチーフにあの頃と今との間の空白を描くお話。
主人公の切ない片想いが描かれながら、終盤になって先輩が抱えてきたものも見えてくる構成が良くて、なんつーかこういう闇を抱えた年上の女って好きにならずにいられねえだろという気持ちになる。要は先輩がよすぎる......。


「ある夫婦の記録」
多様な夫婦関係のあり方を描いた作品ですが正直この関係性はだいぶ気持ち悪く感じてしまった......。しかし主人公(妻)の純粋さとやさぐれの入り混じった感じがエロすぎた。こんなセフレがほしいランキング第1位である。


「ミッドナイトブルー」
高校時代の天体観測と少女の死。残された3人は2年ごとに"同窓会"を行うが、主人公にだけは死んだ少女の幽霊が見える。
表題作に相応しい青春(とその後)を描いた傑作。
2年ごとの集まりを繰り返すうちにどんどん変わっていく3人と、いつまでも高校時代のままの幽霊少女のギャップがつらい......。それでもあの頃の気持ちは忘れずに変わらずに残ってて......。さよならも言えずにこの世を去った彼女とちゃんと別れられたという切なさ......にぐうぅ〜っと思ってたらあのラストシーン、あれはいかんよ、切なすぎるし美しすぎる......。
幽霊が出てくる時点でまぁファンタジーではあるんですけど、ラストにあの画を持ってくることで一気に世界が拡張されるような突き抜けた読後感があって、細部は忘れてもあのラストシーンだけはなかなか忘れられないと思う。