偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

シソンヌライブ[trois]雑感

まだまだ観てます。3本目です。

シソンヌライブ [trois] [DVD]

シソンヌライブ [trois] [DVD]

  • 発売日: 2015/03/31
  • メディア: DVD


空港/息子の目覚まし時計/せいさくしゃ/先生の本性/じじいの杖/ナイト便所/リューヤの思い/野祭/母と息子/空港2


個々のネタの好きさ具合では第2巻が1番でしたが、トータルの作り込みとしてはこの第3巻が圧倒的なのではないでしょうか。

冒頭と末尾が「空港」で繋がっていて、幕間では1人の青年のなんでもない一日の中に、それぞれのコントの内容が少しずつ絡んでいきます。
この演出によって、都市の中に生きるちっぽけな人間たちの群像劇というような趣が全体に漂っているわけです。
また、それぞれの話の内容にも今回は特に「死」(そして死によって際立つ生)が濃厚に描かれています。
ネタバレになりますが、ラストの「空港2」で、(ネタバレ→)認知症の母親が結婚式のために飛行機に乗る場面、おそらく母親は自爆テロに巻き込まれて亡くなるのでしょう。そうした悲しい死を描く一方で、(おそらくあの息子のであろう)結婚式からは新たな命の誕生が連想され、輪廻転生のように生と死が繋がる構造になっています。それを、この公演の冒頭と結末をループ状にする ことで表現するセンスがトータルコンセプトアルバムとしてめちゃくちゃ巧いですよね。

なんでもスピッツに繋げてすみませんが、やはりスピッツファンとしてはこういう死の描き方というのは好きでしかないので、ネタの面白さ以外にもこうしたテーマ性の部分でもシソンヌのこと好きなんだなぁと改めて実感させられましたね。


では長くなってしまいましたが、ここからは各話の感想を少しずつ。


「空港」
こういう、一般人からしたらどういう世界観なのかよく分かんないお兄さんの感じがもう完璧に出てて凄いです......。

「息子の目覚まし時計」
一転、息子を亡くした悲しみが完璧に出てて凄いです。悲しみ故のことだと分かるからこその可笑しみってのが良いですね。

「せいさくしゃ」
久しぶりに再開した友人同士の間に生まれてしまった格差を笑いにしていますが、その裏には、生活を支える基盤となる仕事をする人々が低賃金・劣悪な環境で働き、不可欠とは言えない仕事の人が煌びやかな暮らしを送る世の中へのアイロニーさえ感じられます。
それはさておき、某歌手の名前の言い方がめちゃくちゃ良い。

「先生の本性」
実は1、2巻から出てた野村くんですが、やはりこのネタのインパクトが強すぎてここで名前を覚えました。
とにかく野村くんの全てのセリフがパンチライン。完全にキマってて何回観ても気持ち良いです。

「じじいの杖」
傑作揃いの本作の中ではやや落ちる気がしてしまいますが、変な理屈を頑固に捏ね続けることでだんだんおかしな世界に入り込んでしまう感じが良いですね。2人以外の人物の狂気を2人の演技によって間接的に暴き出す様が絶妙です。

「ナイト便所」
弱者の視点を掬い取るようなコントが多いシソンヌですが、これなんかはそれが分かりやすく出てますね。珍しく、見下す、見下されるという上下の関係がはっきりと描かれていて、長谷川さんが普通に嫌なやつなんですよねこれ。だからこそ最後のエモさが際立ちます。

「リューヤの想い」
一転、ワルなアベックのラブコメ
夜中にエンジン音うるさい車とか大っ嫌いなんだけど、そんな私情を飛び越えてなんかこの2人には愛着が湧いてしまいます。
ミステリとして観るとこれ実は"操り"モノで、そう考えると"犯人"はめちゃくちゃ頭が良いなと思うわけですが......。

「野祭」
「ラーメン屋」に並ぶやべえおっさんキャラ二大巨頭。
とりあえずおじさんが喋ってるの聴いてるだけで面白いし、ドラマのTRICKとか好きだから田舎の奇祭ネタってのも最高。あと地味にあの引越しのくだり好きです。ミステリ感。
全体のコンセプトからはやや外れる感があるものの、この巻で1番好きです。

「母と息子」
これも大好き。
笑っていいのかどうか分からないような際どいネタなんだけど、題材に対する一定の誠実さが感じられるので安心して笑えます。笑いながら、じわじわと涙腺へのダメージが蓄積されて、終盤のアレで一気に決壊してしまいます。



とそんな感じで、めちゃくちゃ面白かったです。