偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田正紀『SAKURA 六方面喪失課』感想

トクマの特選より。
本当ならそろそろ囮捜査官シリーズのセカンドシーズンが刊行されているはずが、予定より遅れているらしく、代わりに刊行された今まで文庫にもなっていない幻の連作長編です。
囮捜査官の代替ということで本作もまた平成2年を舞台にバブルという時代を切り取るというテーマを持ち、また連作形式でいくつもの出来事が繋がっていくモジュラーっぽい形式になってんのも囮捜査官に通じます。窓際部署に追いやられたうだつの上がらない刑事たちのキャラは袴田さんっぽいし。


綾瀬署に新設された「失踪課」。
失踪者を探すという建前だが、実際にはオタク、好色漢、パチンコ狂い、怠け者などどうしようもない人材の墓場であり、「喪失課」という蔑称で呼ばれていた......。


全6話の連作形式で、"喪失課"に相応しい小さめの事件......放置自転車回収トラックの失踪、アダルトショップから盗まれた大量のパンティなど......を、喪失課のメンバー1人ずつがリレー形式で主人公となり解決していく構成となっています。
各話一応短編ミステリとして謎があり解決もあるんだけど、分量が短かすぎて謎自体の不可解さとか伏線とかが描ききれていない印象で、真相が明かされてもどこか唐突に感じられてしまいます。一つ一つのトリックは面白いのも多いので、もうちょいじっくり読みたかった気はしてしまいます。
というか、けっこうヘンな話ばっかなのでもしかしたら没ネタというか、普通の短編には使いづらいようなネタを喪失課にやらせてるんじゃないか疑惑もなくはない。
それよりも、メンバー各人のダメな個性とそれによって喪失課に飛ばされた経緯とかが面白く、そんな彼らがいきなり名探偵になって事件を解決しちゃうのがギャップ萌え的にカッコいいのが面白かったです。

そして最終話ではそれまでの各話で仄めかされた色々が回収されながら一つの大きな事件へと収束していくんですが、こっからが面白い。
ミステリとしてはアレをアレするという大胆な犯人たちの計画が面白く、そこに刑事ドラマというよりは洋画のポリスアクション的なノリで喪失課の面々が巻き込まれていくクライマックスへ向かうのにテン上げ。
あとがきにもあるようにいい意味でのB級感満載でシンプルにエンタメとしてとても面白い作品でした。

ただ、タイトルロールのSAKURAという男の存在感がわりと薄かったのは残念かな......。